第八十五話「想いを断ち切るために」
結月は珍しく一人、縁側で月を眺めながら座って考え事に耽っていた。
(凛さんと恋仲……)
凛のことを想い、結月は胸が苦しくなった。
(凛さんはいつも優しい。けど、時々荒々しい。あれが本来の凛さん?)
胸を押さえて、着物の衿を握る。
──翌日。
「結月様」
「美羽。どうしたの?」
ふすまのむこうから美羽が声をかけていた。
「凛様がお見えです」
「通してもらえる?」
「かしこまりました」
永遠と美羽、そして守り人は結月と凛が恋仲になったことを知った。
もちろん、朔も同様だった。
「結月さん、会いたかった」
「──っ!」
まっすぐに感情をぶつける凛に結月は俯き、照れた。
しかし、凛がそれを許さなかった。
凛は結月に近づくと、そのまま顎を上向きにさせて結月と自分の視線を合わせる。
結月のより赤くなる顔を見て、可愛いと言いながら凛は微笑む。
「結月さん、お出かけしませんか?」
「え? はい、大丈夫ですが……どちらに?」
「内緒です」
凛は自らの唇の前で人差し指を立てて言った。
──せせらぎの森。
結月と凛は半刻ほど歩いたところにある川のある森に来ていた。
澄んだ水が綺麗なところで、人気はない。
「結月さん。見てください」
「──っ!」
そこには、蛍の光が広がっていた。
結月は見たことのない光景に驚きを隠せない。
「驚きましたか?」
「この時期は毎年蛍がやってくるのですよ。とても綺麗でしょう?」
結月と凛は隣に立ち、蛍で広がる景色を楽しむ。
自然の結月は笑顔になり、うっとりと眺める。
「綺麗ですね……」
「はい、毎年、私の密かな楽しみなんです。結月さんに見せられてよかったです」
結月と凛の目が合う。
蛍の光が二人を包み込むように、静かに明かりを燈している。
凛は結月の手を握ると、そっと自らの手で引き寄せ、抱きしめた。
そのまま結月のうなじのあたりに顔をうずめながら、凛は言う。
「やっと捕まえた……。あなたは蝶のように自由に羽ばたく。でも、もうどこにも行かせない」
「凛さん……」
「凛」
「え?」
「凛と呼んでください」
「…………凛」
その言葉を聞き、満足そうに微笑むと凛はゆっくり結月の唇に自らの唇を近づけた。
そのまま、二人の影は重なる。
蛍はそれを歓迎するかのように、より一層光を強めた──
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