第七十七話「願いの奥に」
朔が意識不明の重体になって、早三日が経とうとしていた。
凛は朔のかわりに全ての職務を代理遂行している。
「あ、この資料は明後日までにお願いします。それから、この資料は瀬那に回してください」
「かしこまりました」
宮廷の中は慌てている。
そして、守り人たちにも朔の容態はかなりの衝撃を与えた。
「どういうことなんですか? 朔様は無事なんですか?!」
凛に詰め寄る瀬那。
「今はなんとも言えないのが正直なところです」
冷静に答える凛。
「でも大丈夫なんすよね? 意識は戻るんですよね?」
蓮人がさらに言葉をつなげる。
「今は回復されるのを待つしかない」
実桜が後ろからこわばった表情で言う。
瀬那と蓮人が実桜のほうに向くと、歯がゆそうにしながら拳を握る。
「俺たちがもっと早く戻っていれば……」
「瀬那、朔様が怪我をされたのは傍にいた私の責任です。あなたは十分任務を果たしています。責任を感じる必要はありません」
「凛さんのせいじゃないっすよ」
「「「「…………」」」」
全員の間で沈黙が続く。
「結月さんは?」
実桜が沈黙を破るように結月の様子を聞いた。
「あれから、三日三晩、朔様につききりで看病をされています。薬草も栽培していた自分が役に立てるはずだと」
「今度は結月が倒れちまう」
「結月さんは私のほうで様子を見ておきます。永遠と美羽もいますから、大丈夫でしょう」
「それより、朔様のいない分と戦闘が長引いた分、各自の省の仕事があるはずです。そちらをお願いします」
「私は事後処理と朔様の代理で職務を全うします」
凛も正直なところ、疲れが見え始めていた。
しかし、宮廷の仕事を滞らせるわけにはいかないため、わずかな睡眠で凌いでいた。
(なかなかきついですが、泣き言は言ってられませんね。それよりも、結月さんの体調が心配です。一緒に倒れなければいいのですが……)
結月は朔の目が開くことを待ち続けていた。
薬草を選んでは煎じ、傷口に塗る。
飲むものは本人の意識が戻らない今、飲ませられずにいた。
(この薬が効くはずだけど、意識がない状態では飲ませられない……)
朔が倒れてから、三日目の夜になっていた。
(朔様……、目を開けてください……)
意識回復を願うが、起きない朔。
結月は意を決したように、薬を手にとった。
(早く良くなってください……)
「──っ」
結月は朔の頭をわずかに上げると、そのまま薬を含んだ口を朔の唇へとつないだ。
月明かりに照らされて二人の影が重なる。
朔の身体に結月の口移しで飲んだ薬が入っていく。
(どうかお願い……)
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