第七十話「朱羅の過去」
「千里、時哉! 早く!早く!」
「ま、待ってくれそこまで引っ張るな! たくっ、お兄ちゃんになるんだろう? もう少し落ち着きなさい」
「はぁ~い」
幼い朱羅が千里と時哉の手を引っ張り、自らの家へ連れて行こうとする。
朱羅の家は貧しく、森の中にひっそりと佇む小さな小屋と畑だけがあり、周りに人の気配はない。
朱羅の父親も、朱羅がなかなか帰らない父親を心配して山に向かうと、獣に襲われた様子で亡くなっていた。
働き手がいなくなったこの家には、千里が密かに金銭的援助をしていた。
そして、千里の幼なじみであった時哉も、よく家に訪れていた。
「わあ~ん」
「お兄ちゃんが帰ったぞ~。泣くな~」
生まれたばかりで母親の手に抱かれている朱羅の妹。
帰った手で触ろうとすると、朱羅の母親が制止する。
「こら! 手を洗っておいで、土だらけでしょう?」
「あ……」
朱羅は自分の両手を見つめると、すぐさま家の外にある井戸へと駆けだした。
「まったく……やんちゃなのは変わらないわ」
「お前そっくりじゃないか」
「そんなことありませんわよ! 私はもっと素直でいい子でした。お兄様こそやんちゃですぐに乳母を困らせていましたわ」
「ま、そんなこともあったかな?」
千里と朱羅の母親が言葉を交わして微笑みあう。
そんなことを話しているうちに、井戸から戻ってくる朱羅。
いとおしそうに眺め、妹の小さな手をそっとつつく。
朱羅にとって、妹の誕生は心の支えでもあった──
朱羅は戦闘の最中、昔の頃を思い出していた。
(あの時が永遠に続くと思っていた)
変化させた太刀を振るう朔の攻撃が朱羅の頬をかすめる。
(俺が甘かったんだ。あいつらを信用した……千里や時哉を信用した俺が……)
臙脂色に光る刃が今度は朔の頬をかすめる。
(あいつらのせいで……あいつらのせいで……)
朔は表情を変えることなく、金色に光る太刀を振るい朱羅の右腕を攻撃する。
朱羅は痛みを感じていないがごとく、朔に細く鋭い刀を振るう。
「お母様! 唯!! どうして……どうして……誰がこんなこと……」
朱羅が家に帰ると、そこには真っ赤に染まり、息絶えた朱羅の母親と妹がいた。
そしてそこには、涼風家の家紋がついた鞘が残されていた。
「これ……千里がいつも身に着けてる刀……」
幼い子供の思考が『家族の仇』の存在を認識するのは容易かった。
朱羅の刃が朔に襲い掛かる。
「涼風家と一条家は、俺の母と妹を殺した!! 許されてたまるか! 涼風の娘も! お前も! 血を絶やしてやる」
「──っ」
朱羅と朔の争いは、朱羅が怒りの感情に支配され、攻撃の勢いが増していた。
その勢いはとどまるところを知らず、朔の右腕をより深く傷つけた。
朔の流れる血を見た凛は、凛に駆けだしていって……
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