第五十七話「閑話 心通い合い」
高熱から回復した結月は、朔の自室へと向かっていた。
(結局丸三日も寝込んでしまった……。朔様に謝罪をしなければ……)
結月は朔の自室のふすま前で、朔に呼びかける。
「朔様、結月でございます。三日間任務に穴をあけてしまった謝罪にまいりました」
少し待ってもふすまのむこうから返事はなかった。
朔が言葉数少ないのは珍しいことではないが、最近は返事はしてくれるようになった。
それゆえに、結月は首を傾げ、少し考えを巡らせた後、ゆっくりとふすまを開いた。
「失礼します……」
縁側に座っている朔を見つけると、ゆっくりと近づく。
近頃は結月も朔との関係に少し慣れ、自らからも声をかけたり、様子を気にしたりするようになっていた。
朔の顔を覗き込むと、そこには穏やかな顔で寝息を立てている朔がいた。
(朔様の寝顔……はじめてみた……)
朔を起こさないようゆっくり自らの身体を動かして、横に座る。
結月がこれだけ近くにいても気づかず、起きない。
(綺麗な顔立ち……、それに意外と可愛いかも……)
腕を組んで顔を少し傾けながら、ふすまを背もたれに寝息を立てる朔。
結月は月明かりに照らされたその姿に見惚れていた。
普段かきあげられた髪が湯あみの後なのか、少し湿り気を帯びて目にかかっている。
まつ毛は長く、きらりと耳の装飾品が輝く。
気づくと、結月はそっとその髪に手を伸ばしていた。
(気持ちいい……艶やかな髪……)
その時、髪に触れていた結月を、朔が勢いよく自身の胸の中へ引き寄せた。
「──っ!」
結月は驚き、思わず息が止まる思いをした。
「男に不用心に触るとは、ずいぶん無防備だな」
胸の中で見上げると、そこには意地の悪い顔をした朔がいた。
「朔様っ! 起きていらっしゃったのですか?」
「さあな」
しばらく時が経つが一向に結月を離そうとしない朔。
「朔様……これはいつ離されるのでしょうか」
「知らん」
不愛想な言葉が返ってきた。
「お前はすぐに逃げようとしなかった。そうしてほしかったんだろう?」
結月は心あたりがあった。
嫌な気持ちは結月の中で微塵もなかった。
それどころか心地よく感じている自分に、結月は最近戸惑いを覚えていた。
「朔様、仮の婚約者でこのようなこと恐れ多いのですが……」
「なんだ」
結月は一呼吸を置き、朔の胸の中で告げる。
「朔様の腕の中は心地よいです」
「──っ!」
朔は目を一瞬見開いたが、すぐに平静を保った。
「申し訳ございません、ご迷惑なことを申しました」
結月は朔の腕から逃れようとするが、朔の腕がそれを許さなかった。
「迷惑ではない」
「え?」
「お前のことは俺が守ると約束した。傍にいるのは婚約者だから当たり前だ。これからももっと傍にいろ」
結月がゆっくり朔の顔を見上げると、朔を月を眺めていた。
(婚約者だから当たり前……)
結月はそれが建前であることに気づいていた。
朔は迷惑だと思っていないということ、心が少し通い合っているということに結月は嬉しさを感じていた。
結月と朔はそのまま身を預け合い、ゆっくりと月を眺めていた──
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