第五十五話「閑話 結月への想い」
朔が琥珀に乗り、飛び出していった様子を眺める凛。
「凛さん、よかったのですか? 朔様を行かせてしまって」
ゆっくりと姿が小さくなる朔を見つめながら、実桜が凛に聞く。
「ああなるともう、朔様は止めても無駄ですよ」
実桜が凛のほうを見ると、優しく微笑みながら朔を見つめる姿があった。
「そこまで朔様が、結月を心配してるようには見えなかったですけど……」
蓮人が駆けてきて乱れていた呼吸をやっと整えて、凛と実桜のもとへ近づく。
「あの方は言葉が少ないだけなんですよ」
「まあ、俺たちもそれは感じてます。でも結月にだけはなんか違うっていうか……」
「遠からず、近からず、といったところでしょうかね」
蓮人は凛の発言の真意を読めず、首をかしげる。
実桜も興味深そうに耳を傾けていた。
「先日もそうだったのですが……」
そういうと、凛はゆっくりと語り始めた。
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凛は結月と妖魔退治の当番の話をするために、結月の自室隣の和室へと向かって廊下を歩いていた。
すると、凛の対面から美羽が急ぎ足で近づいてくる。
不思議に思った凛は、美羽に声をかけた。
「美羽さん、そんなに急いでどうしました?」
「あぁ、凛様。結月様が高熱を出されておりまして……」
「結月さんが高熱……、具合は?」
「もう丸一日熱にうなされて目を覚まさないのです」
「丸一日ですか……」
高熱で丸一日も目が覚めないのは、特に珍しいことではないが、結月の場合は先日力を暴走させ疲弊していた。
少し不安が凛の中で感じられた。
「美羽さん、このこと朔様には?」
「お伝えしております、わかったと一言だけ仰せになり、職務に向かわれました」
「わかりました。また何か状態がわかれば連絡をください。よろしく頼みます」
「かしこまりました」
美羽がお辞儀をすると、失礼します、と一言残し、再び足早に去っていった。
(結月さんが高熱ですか……少し心配ですね)
少しの間、結月のいる自室を見つめると、凛は踵を返して職務に戻ることにした。
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凛が朔の執務室に到着すると、今朝はいなかった朔がすでに執務をはじめていた。
「おはようございます、朔様」
「ああ」
いつものように言葉数少なく返事をすると、そのまま書き物を進めていく。
一刻程二人で執務をしていた際、凛は朔の異変に気付いた。
(いつもより朔の執務ペースが遅い……)
普段であればすでにほぼ執務を一段落終えるところが、まだ三割程度しか進んでいなかった。
(まさか、朔もどこか調子が悪いのでは……)
主人の体調を心配し、書物を片付けるふりをしながら朔に近づいた。
すると、そこには真っ白な紙に筆を持ったまま頬杖をつく朔の姿があった。
さらに朔の足元には、大量のくしゃくしゃに丸められた紙が散乱している。
横顔からでもわかる、放心状態だった。
しばらくぶりに見た朔の人間らしく悩む姿に、凛は驚きを隠せなかった。
と同時に、凛は朔がそうなる理由に気が付いた。
(結月さんか……!)
凛は納得がいったように一つ頷くと、朔に声をかけた。
「朔、薬室に確か熱に効く薬の貯蔵があったはずです、美羽さんが探していらっしゃったのですが、幾分私は今手が離せず、もしよろしければ美羽さんへご伝言をお願いできますか?」
凛はわざと『朔』と呼び、友人の頼みであると朔を促した。
一呼吸したあと、朔は凛に告げる。
「少し席を外す」
「はい、わかりました」
朔も凛の気遣いをわかりながら、表情を変えることなくその場をあとにする。
(可愛い人ですね……)
普段より早足の朔を見やりながら、微笑んだ。
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「朔様が、執務をこなせなくなるほど……」
蓮人と実桜は驚き、凛を見つめる。
「ええ、まあ朔様の威厳もありましたし、言うのを少しためらいましたが、朔様の人間らしさも知ってもらいたくて」
「意外です」
実桜が言葉少なめに告げる。
「朔様が誰より心配しているのは、結月さんのことなのかもしれませんね」
姿が見えなくなった朔を思い、凛はふっと一息吐いた。
内緒ですよ?、と二人に告げて、凛は朔たちの帰還を信じて治療の準備に向かった──
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