第四十九話「心臓」
背中を大きく打ち付け、さらに右肩に深い傷を負った結月は強烈な痛みに襲われていた。
さらに、朔の姿をして【朔への忠誠心】に反応する魔夜を前に、彼女の頭の中には『絶望』の二文字が浮かんでいた。
呼吸が苦しく起き上がることもやっとの彼女の前に、魔夜が迫る。
「はぁ……はぁ…………」
刀を持ち上げようとするが、右腕が痺れて動かない。
魔夜の動きの速さを計算して、身体を動かすよりも左腕を上げることを優先する。
振りかざされる魔夜の刀が結月の顔に触れるその瞬間に、結月は左腕の刀を合わせて防いだ。
「くっ!」
「……」
「結月ちゃんっ!!」
瀬那が呼びかけるも、自分自身も岩に叩きつけられた影響ですぐに動くことができなかった。
刃と刃がぶつかり、火花が飛び散る。
結月はなんとか片手で受け止めていたが、もはやそれも限界に近づいていた。
痛む身体に鞭を打ちながら、腰をひねって魔夜の攻撃を受け流すと、そのままの勢いで立ち上がって飛び退く。
刀が結月のいた木に突き刺さると、わずかに魔夜の動きが止まった。
その瞬間を結月は見逃さなかった。
全神経を集中させて魔夜の背中を取ると、そのまま心臓めがけて双剣を突き刺した。
「やった……!」
瀬那が勝ちを確信した。
「……」
しかし、結月はそのわずかな違和感を読み取り、戦闘態勢を崩していなかった。
(心臓を貫いた感覚がない……)
瀬那も徐々に結月の様子に気づいた。
「結月ちゃん……?」
魔夜は心臓部分を貫かれながらも、何食わぬ顔で結月のほうを振り返る。
刀を木から引き抜くと、そのまま結月に向かって振り下ろした。
結月は急ぎ双剣を引き抜くと、顔の目の前で交差させて素早く受け身を取る。
「ぐっ!」
「まだ動けんのかよ、あいつ――っ!」
瀬那は岩に叩きつけられた身体を必死に起こして、結月のもとへ向かった。
「結月ちゃんっ!」
「瀬那さん!」
走りながら自らの周りに結界を施し、結月に近づく瀬那。
魔夜はその結界により弾き飛ばされた。
「結月ちゃん、やつはなんでまだ動いてんの?!」
「わかりません。心臓を狙いましたが、そこに心臓はありませんでした」
「なかったっ?!」
瀬那は信じられないことを聞いたというように驚く。
「はい、心臓部分を確実に貫きましたが、そこに臓器らしきものはなくただの肉片がありました」
「心臓は別の場所ってことか?」
「ありえます。ですが、どこかまではまだわかりません」
「厄介すぎんだろ……」
結界の中で話をしながら、魔夜を見つめる二人はさらに驚くべきものを見た。
「──っ! 貫いた部分を修復した……?!」
月明かりに照らされて、魔夜は不気味に佇んでいた──
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