第四十話「苦悩と希望」
結月は自室に戻ってからも頭の中で自分が暴走する直前のことを考えていた。
(藍色に染まって……それから……やっぱり思い出せない……)
『扱いきれずに暴走した』
朔のその言葉が頭をついて離れない。
暴走する【刀】などどんな役に立てようか。
結月の頭の中は自分自身への不甲斐なさと情けなさで占められていた。
(こんな時……朔様だったらどうするのだろうか)
結月の中で自然と朔の姿が思い出された。
初めて共に戦ったあの夜。
結月の中には何か戦闘の中で感じた心地よさがあった。
(あの心地よさは何なのだろうか……)
結月は心地よさの正体がわからずにいた。
その時、結月の頭の中に幼い頃の記憶がよみがえってきた。
(あれ……あそこ……もしかして)
結月が思案していた時、永遠がふすまの向こうから問いかけた。
「結月様、凛様がいらっしゃっています。結月様にお頼みしたいことがあるとのことでしたがいかがいたしましょうか」
「あ、わかった。隣の和室に来てもらえるようにお願いできる?」
「かしこまりました」
結月の自室への入室は朔と永遠、美羽以外禁じられていた。
しかし、妖魔退治の任務に結月も参加するようになってから、結月と守り人の話す場が必要となったため自室横の和室を会合の場として使用するようになっていた。
結月がその会合の場である和室で待っていると、永遠がふすまを開け、凛が中に入ってきた。
「身体の具合はその後いかがですか?」
「問題ありません。自分でも5日も眠っていたことに驚いています」
凛が丁寧な所作で着物の裾を折りながら、正座して結月に向かい合う。
「それはよかったです。皆心配していたのですよ、瀬那が周りの目を盗み、見舞いと称して自室に向かおうとしていたので少々お仕置きしておきました」
結月はそう言っておもむろに微笑んだ凛を見て、【お仕置き】の内容を聞くのを止めた。
(瀬那さん、あの夜怪我したって聞いてたけど、その身体で大丈夫だったんだろうか……)
「さて、結月さんにお頼みがあってまいったのですが、よろしいでしょうか」
「はい、私もちょうど凛さんに頼もうとしていたことがあったのです」
「なんでしょうか」
結月は自分が先に話していいのか戸惑うとその様子を察した凛が先に発言するように促した。
少し会釈をし、結月は話し始めた。
「涼風家の屋敷跡に一緒に来ていただけないでしょうか?」
「よろしいですが、またなぜ?」
「力の暴走を抑える方法がないか知りたいんです。屋敷跡は燃えて何もないかもしれませんが、実は父と母、私だけの秘密の蔵が屋敷から少し離れた森の中にあります」
「──っ!」
凛は初めてその情報を知った。
涼風家が襲われた数年後、当主となった凛は妖魔退治の手がかりがないかと涼風家のあとを追っていた。
しかし、当然屋敷は全滅、紙切れ一つ残っていなかった。
まさか、別の場所に隠された蔵があったとは、凛は自分の知らない情報が手に入るかもしれないと期待を寄せた。
「私一人でいってもよかったのですが、守り人の皆様の妖魔退治の参考になる資料もあるかもしれませんので」
「ぜひ、ご一緒させてください。妖魔退治で役に立つのであれば大変ありがたいことです」
「私の話は済みました。次は凛さんの頼み事を聞かせていただけますか?」
「ああ……いえ、それはまた今度で大丈夫です。偶然にも結月さんの頼み事で少々叶いそうですし」
結月が少し首をかしげる。
凛はにっこりと笑い、その場を後にした。
その後、朔に事情を説明して外出の許可をもらうと、翌日、結月と凛は涼風家の屋敷跡へと向かった──
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