トマの日記~ドミニク・その3
家に戻ると、ヴァンサンがいつものあたたかい笑顔で僕を抱きしめてくれた。
「どこに行ってたんだ?今日は何の日だ?」
ヴァンサンは小さな優しい目と笑顔を一層輝くものに変えるえくぼをもっている。
僕はいつもそのえくぼにキスしたくなるんだ。
で、僕がぼんやりみつめていると、ひっつかむようにダイニングにひっぱていった。
テーブルにはご馳走がならんでて、真ん中にはバースデーケーキ。
「あ・・・。そうだった。今日は僕の誕生日だ。」
「思い出したかい。マダム・ロフェリンもさっきまで待ってたんだよ。」
「ごめんなさい。そういえば、なんかいってたな。」
「おいおい、自分の誕生日を忘れるほど楽しい夜遊びだったのかな?」
そういいながら、いつものように僕を抱きしめてくれた。
ヴァンサンの体は大きくてちょっぴり、太ってる。脂肪の奥には男らしい筋肉がありそうだ
けど、手に届きそうにない。キスしてくれる時、下唇の真下の整えられた三角形の髭が気持
ちよかった。形のいい顎を縁どる髭も格別な感触。
物心がついたときから、誕生日にはヴァンサンがいた。
あるとき、聞いたことがある。
「ヴァンサンは僕のパパなの?」って。
するとヴァンサンは、
「残念だけど、違うよ。」と今夜のように素晴らしい笑顔で答えた。
毎年、誕生日が来るたびに思い出す一コマだ。
せっかくだから二人でケーキをほおばった。そして、それとなく聞いてみた。
「ママから何か聞いてない?」
ヴァンサンは少し困ったような顔したようにみえた。でもいつもの笑顔で、
「どうかしたの?」と甘く囁くように聞いてきた。
なんだかいつものヴァンサンじゃないみたいで戸惑ったけど、
「ドミニクのこと、聞いてない?」と口に出してみた。意を決したような声色にしてみた。
ヴァンサンは、ケーキをほおばり、僕をみつめた。まっすぐに。そして、
「聞いてるよ。」と僕をやはりまっすぐにみつめて答えた。
「ママ、いつもと違うと思わない?いつもなら・・・」
と言いかけたら、ヴァンサンが遮った。
「違うよね。」ときっぱり。
僕から視線を外さず、しかも、いつもの柔らかい物腰でもない。
僕は、はじめてヴァンサンに畏れを感じたが、勇気を奮い起こして言葉をつないだ。
「どうしてか知ってるの?」
「なんとなくね。はっきり、本人から聞いたわけじゃないけど。」
それからしばらくして、学校の門を出ると友達がメモを持って駆け寄ってきた。
「君に渡してって、男の人。君のママの友達だって。」
みると、ドミニクからだった。
次の待ち合わせ場所と時間が書いてあった。
僕は、妙な気分になった。
「これって、デイトの約束になるのかな。」
すっきりしない気分のまま、僕は家路についた。
このあいだヴァンサンから聞いた話を反芻しながら。
ママはまだ帰っていない。




