表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トマの日記  作者: かとう 花
17/17

トマの日記 最終話

「トマ、あの時のように雪がふってるよ。覚えてるかい?君が私の帰りを雪の中でまって

いてくれた夜。」

僕はエティエンヌの顔を久しぶりにみて胸が熱くなった。

彼も僕の横に座り、肩を抱いてくれた。そして、二人で窓の雪を眺めた。


「君に謝らなくてはいけないね。」

僕は、予想外な彼のことばに驚いた。

「そのせいで、ずっと君を苦しめていたのかもしれない。でも、私も苦しんでいたんだよ。

君を愛してる。あの雪の夜からずっと。一度も口に出さなかったのは、私の年齢のせいだ。

君のママより年上の私が、君を本当に愛していいのだろうか。とね。君もわかっていたんだ

ろ?その事には決して触れなかった。」

彼はそういうと僕の目を覗き込み、僕がうつむくと肩をだく腕に力をこめてくれた。

「ロマンが現れたとき、私は君を失うことになるのではないかと怖れたよ。案の定、ロマン

は君に魅かれはじめ、君もロマンの若さとその魅力にひきつけらているように思った。

それは、私にとって耐えがたい事だった。でも、君たちが本当に愛し合えるのなら、それでも

いいと思った。彼となら、君は世界中をみることができる。しかし、私が君にみせてあげられる

のは、あの書棚のある部屋だけだからね。でも、それが現実になると、ひどい嫉妬に苦しん

だ。君はいつも真っ直ぐな目で私をみていたね。見透かされるのが怖かった。それで益々私は

自分の中に閉じこもっていった。ロマンはわかっていたはずだ。私の気持ちに気付いてた。

そして、私も彼がどうしたいと思っているのかわかってた。彼は行動し、私は沈黙した。

私もある意味、共犯だったんだ。そして、君をこんなに傷つけてしまった。もっと私も自分に

正直になるべきだったんだと思う。でもできなかった。一人になる方が楽になれると思った。」


僕は、これまでの事をアルバムをめくるように思い出しながら彼の話をきいていた。

「僕の事を怒ってたわけではないってこと?」

「愛してたんだ。心から。」

「でも・・・」

「どうして人は恋をするんだろうね。ママの話は聞いたよ。みんな、君を心配してる。もちろん

この私もだよ。でも、君はとても賢い。君ならこの事態をきちんと理解できるはずだ。」

「ギリシャにいくべきだっていうの?」

「ちゃんとその目で現実をみてくるんだ。君ならできるはずだ。君はまだまだ若い。君自身の

人生はこれからなんだから。」

「エティエンヌ・・・あなたは?僕とずっといっしょにいたい?」

「もちろん、いっしょにずっといたいよ。命の続く限りね。」


『命の続く限り・・・』


僕はその言葉で不安になった。エティエンヌがより一層僕の肩を強く抱きしめて言った。

「時間が限られているからこそ、今を大切にしよう。トマ。二人に与えられた時間を大切に

しよう。そうしたいと心から思ってる。もう前のように私も逃げたりはしないよ。」

そう言い終わると、彼は僕に永遠に続いてほしいと思えるようなキスをしてくれた。

久しぶりの彼の匂いと味が僕の口の中いっぱいに広がって、僕の体の奥深くに沁み込んでいく。

彼の唇がようやく僕から離れていくとき僕は不意に彼のからだの具合が気になり始めた。

床がとても冷たかったから。


「エティエンヌ、ここは冷たすぎるよ。あなたの体調をまた悪くしてしまう。」

「大丈夫。君が私のそばにいる。」

「でも、せっかくよくなってきたのに。ねえ、ベッドに横になろうよ。」

「いっしょに?」

「もちろんだよ。」

彼は僕をみつめて彼らしい微笑みを湛えながらまたキスをしてくれた。

僕達はベッドに横になり、初めての夜のように抱き合って眠った。彼の体は相変わらず

冷たくて、僕は僕の熱で彼を暖めたいと心から思った。


翌日、アンジェリクの機嫌がすこぶる悪かった。


「ちょっと!エティエンヌはまだ安静にしてないといけないのよ!」

「僕達は一緒に眠っただけだよ。何もしてない!」

「ぼくたち・・・」

アンジェリクはそう呟くようにいうと、傷ついたような顔つきをして黙ってしまった。

イヴがアンジェリクの横にやってきて、

「アンジェリク。君には私がいるじゃないか。」

というと、怖い顔をして、イヴの足を思いっきり踏んづけ、衣装室へ入っていった。

「困ったな。あれは本気で恋におちてる。」

とイヴが溜息まじりに僕にいった。そして、

「ヴァンサンから連絡があったよ。今、お母さんの様態も落ち着いているそうだ。一度

ギリシャにいってこないかね?ヴァンサンに色々報告もあるだろ?」

「うん。そうする。僕、エティエンヌと生きていきたい。彼がようやく僕に『愛してる』って

いってくれた。僕も、同じ気持ちだって、わかった。」

「よかった。しかし、アンジェリクの言うようにまだまだ、彼には休養が必要だよ。その

為にも、君がこれからどういう指針を持って生活していくか、じっくり考えておいで。

二人の未来の為にもね。」

「彼、大丈夫?」

「大丈夫だよ。アンジェリクがついてる。彼には不思議な力あってね。人の心もからだも

癒してしまうんだ。」

「でも、僕、今、アンジェリクを傷つけてしまったみたいだ・・・」

「大丈夫だよ。私がついてる。」

「だけど、あなたには別の人がいるんでしょう?」

「ああ、いるよ。二人を愛してはいけないかね?」

「いけないとは思わないけど。なんだかアンジェリクがかわいそうだよ。」

「しかし、私はアンジェリクを愛してる。愛し方は以前とは違うけど、彼のためなら

私はなんだってするつもりだよ。彼が不幸になるような恋をしてしまったら、私はその

男を殺してしまうかもしれない。」

「エティエンヌはいい人だよ。」

「わかってるさ。それに、エティエンヌの心は君のものだ。かわいそうだが、アンジェリク

は失恋することになるだろう。でも、大丈夫だ。私がついてる。」


僕がいよいよギリシャに出発する日がきた。


エティエンヌの枕元で少し話をした。彼は、僕の手のひらに何度もキスをしてくれた。

僕も、エティエンヌの頬に何度もキスをした。そして、

「トマ、ギリシャでどんな事があっても、ここへ帰ってくるんだよ。私も待っているし、

アンジェリクも、イヴも君の帰りを待っている。いいね?」

とエティエンヌがいった。僕は大きくうなづいた。


イヴが空港まで車で送ってくれることになった。

車に乗り込み見上げると窓辺にアンジェリクとエティエンヌが立って見送ってくれていた。


「トマ、早く帰ってこないとアンジェリクに彼を盗まれてしまうぞ。」

とイヴはいたずらっぽく笑いながらいう。僕は、イヴの髭面にキスをして、

「そんなことはさせないよ。」といった。



 春がきたら17歳になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ