<12-1> ニコリンの有用性 その1 有効事例
<12-1> ニコリンの有用性 その1 有効事例
治療薬に「ニコリン」という薬があります。
一般名はシチコリン(Citicoline)で、脳卒中などによる意識障害の治療に古くから使われています。
私も高齢者医療を行っていて、脳梗塞などの意識障害を呈する病態に時々遭遇します。
その時にこのニコリンを使います。
すると、午前中に、声かけに反応しない意識障害の患者が、夕方には開眼するというような、驚異的ともいえる経験を時にします。
最近、2例の事例に遭遇しました。その経過を経時的に書いてみます。
事例1)Sさん 79歳男性 アルツハイマー型認知症(終末期)
現病歴:X-3年6月17日に誤嚥性肺炎で一般病院に入院した。経口摂取困難で点滴治療を受けていた。胃瘻造設をすすめられたが家人は断り、看取りのために当院に紹介され入院となった。
6月30日(1病日):入院。寝たきり状態で、常時閉眼し、強い声かけでうっすらと開眼する。発語や体動はない。経口摂取は全くできず点滴をしている。以後、点滴は毎日続けた。
7月2日(3病日):点滴の中にリンデロン2mgを入れた。
7月4日(5病日):入院時より少し体動が見られる。リンデロンを2mgさらに追加し計4mgにした。
7月5日(6病日):ニコリン500mgを点滴の中に入れた。
7月7日(8病日):ナースの声かけに少し小声で答えた。
7月9日(10病日):昼夜逆転だが夜は大声を出していた。
7月11日(12病日):ナースの「何か食べる?」の声かけに、「食べる」と答えた。氷を口に入れるとしゃぶっていた。アイスクリームも少し食べた。入院後初めてのことだ。
7月12日(13病日):しっかり開眼して、少し話す。笑う。「何か食べる?」の声かけに、「食べる」と答えた。アイソカルゼリー(栄養補助食:1個150kcal)2個弱食べた。
7月14日(15病日):午後に病棟の誕生会があり、べッドごとホールに出て参加した。
7月15日(16病日):朝から開眼している。奥さんが午後3時に面会に来た。ちょうどその時アイスクリームを食べさせてもらっていたので、奥さんも一口食べさせた。みんなで記念写真を撮った。
7月18日(19病日):病状は同じようだ。これが元気さのピークだろう。
7月21日(22病日):徐々に衰弱している。今日はアイスクリーム数口がやっとだった。
7月24日(25病日):点滴が入りにくくなった。
7月26日(27病日):点滴は入らない。
7月29日(30病日):午前0時5分に亡くなった。
☆事例1のまとめ
入院してきたときは、ベッドに寝たきりで、声かけにも反応なく、時にかすかに目を開ける程度だった。
介助しても全く経口摂取はできず、前医で受けていた点滴を、入院後も同じように続けた。
3病日に、その中にリンデロン2mg(後に4mgに増量)をいれ、さらに意識の改善を目的としてニコリン1000mgを入れた。
すると、2日後に目をしっかりと開けて、声かけに少し答えるようになった。6日後には経口摂取も介助によってできるようになった。
ただし、必要栄養量すべてを取ることはできず、点滴は併用した。
奥さんが16日目に面会に来たので、良い思い出を作ってもらおうと、奥さんに経口摂取の介助をしてもらった。
おっかなビックリで奥さんは介助していた。
この時が元気さのピークで、それからほどなくして、患者さんは衰弱していき、亡くなられた。
事例2)Kさん 79歳男性 混合型認知症
現病歴:X-3年1月、上記病名にて精神科病院に入院した。X-3年6月から寝たきりで、活気、嚥下機能が低下した。経口摂取が少ないため点滴を併用していた。 9月に全く食べられなくなり胃瘻造設を勧められたが、家族は断り、当院を希望して転院した。
X-3年10月6日(1病日):入院。寝たきり状態で全身的に衰弱していて、声かけに応答も弱い。経口摂取もほとんどできない。
10月7日(2病日):点滴フィジオ35 500ml 2本、プラスアミノ200ml 1本を点滴した。リンデロン 2mgをプラスアミノに入れた。
10月8日(3病日):ニコリン500mgをプラスアミノの中に入れた。
夕方にはアイソカルゼリー(栄養補助食)を食べ、翌日には3個くらい食べている。
10月10日(5病日):ニコリンを2本目のフィジオにも500mg入れた。
10月13日(8病日):同じぐらいの量を食べている。よくしゃべる。リクライニング車椅子に乗せてホールに出し、他患のいるテーブルにつけた。
10月14日(9病日):よくしゃべる。精神科ドクターは初めて会話が成立したと言う。
10月31日(26病日):熱発した。胸部レントゲン写真を撮って右の肺炎が判明した。誤嚥性肺炎と思われる。点滴に抗生物質を加えた。禁食にした。
11月7日(33病日):胸部レントゲン写真を撮ると肺炎は完治したが、点滴が入りにくくなった。
11月10日(36病日):経口摂取は数百ccくらいだ。点滴は今日は入った。
11月11日(37病日):家族の面会があった。意識はしっかりしていて、実の妹さんやお孫さんなどを理解していた。今日は点滴が入った。
11月14日(40病日):亡くなった。最後まで穏やかだった。
☆事例2のまとめ
事例1と同じように、入院時は寝たきりで、声かけの反応も弱く経口摂取もほとんどできなかった。
栄養補給のための点滴の中に、リンデロン2mg、ニコリン1000mgを加えた。
翌日には食べ始め、5日後にはよくしゃべり、会話が成立するまでになった。
その後、経口と点滴の併用で、1か月間ほど同じ状態が続いた。26病日に誤嚥性肺炎を発症した。それを契機に、急激に衰えていった。
最期は安らかな死だった。
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次回は、ニコリン、リンデロンを含めて、 認知症終末期の緩和ケアのあり方について考察してみます。
〈つづく〉
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