<11> 認知症のホスピスケア
<11> 認知症のホスピスケア
私は現在、認知症専門の精神科病院(S病院)に内科医として勤務しています。
1990年代私は、関東初のホスピス病棟(緩和ケア病棟)を2か所に造りました。
当時、日本のホスピス病棟数は、全国に10か所に満たない状況でした。(今は400か所余りあります。)
そして今は、認知症のホスピスを自認するこのS病院で働いています。
当病院では昨年(2023年)7月から、2006年のオープン以来といえる業務の見直しを行なっています。患者さんのQOL(生活の質)向上を図るのが目的です。
そこで認知症のホスピスケア(緩和ケア)について、私の経験したところを述べてみます。
ホスピスケアの特徴は、①「人間の尊厳」を大切にする、②苦痛などの症状を緩和する、③QOL(生活の質)を大切にする、があげられます。
① 「人間の尊厳」を大切にする
ホスピスの先駆者山崎章郎医師は、「患者の自立を支え、尊厳を守る事が、ホスピスケアの基本である」と述べています。
たとえ認知症となって知的機能が障害されても、何ら「人間の尊厳」が毀損されることはありません。
そういう認識を私たちは持っていなければなりません。
② 症状を緩和する
不穏や徘徊、うつなどの認知症の周辺症状は、精神科的に緩和します。
さらに入院生活で、転倒して骨折したり、食事の誤嚥で肺炎を起こしたりすれば、内科的、外科的に治療します。
臨床検査は、症状緩和に役立つものをやることが得策です。
入院時には、すべてのベースとなりますから、血液尿検査から、頭部CT、レントゲン検査、心電図をとります。
入院中の検査については、症状を緩和するのに役立つ時のみ検査をし、過剰な検査は避けます。
認知症が高度に進行すると、終末期に入ります。終末期は、①コミニュケーションがまったく成立しなくなったとき、②食事の経口摂取がまったくできなくなった時をいっています。
終末期では、なるべく自然の生命力を大切にし、無理な延命を避けることがベターと考えられています。
死に行く時の苦しみが非常に強い時には、モルヒネを使うこともあります。
③QOLを大切にする
QOLは、quality of life(生活の質)の略です。「QOLを大切にする」は、延命という生命の量的な側面より、質的なものを大切にしようというものです。
ホスピスケアの主たる目的はここにあります。この度の業務見直しも、このQOL向上に目標があります。
そのためには、限られたマンパワーと時間をいかに適正に配分するかが鍵となります。
以前から、診療の記録に要する手間や時間が多大であることが指摘されています。
なるべくそれらを簡素化して、その分を患者さんのケアに回すのが得策です。
例えば今回の見直しでは、バイタルは毎日測りますが、異常のないときは体温表(記録紙)に記載しないことにしました。週1回のみ記載します。
法律的に、体温表に毎日記載しなければならないという規定はないのです。
もちろん異常があったときには、きちんと記載します。
これは私の長い医療経験の中でも初めての試みです。
最初のうちはおっかなびっくりでしたが、いざやってみると全く支障がないことが分かりました。
認知症患者さんのQOLを知ることは難しい課題です。しっかり観察しないとサポートはできません。
リハビリ室やホールでは、作業療法や月例の誕生会、スタッフが考案したゲームなどを、みんなでやっています。
毎日午後には、各病棟が順番に、1階ホールに出向いておやつタイムを持っています。
いろいろ工夫を凝らして、楽しい生活の場となるように努力しています。
適切なホスピスケアを実現するには、キュア(治療)とケア(看護・介護)が、並列でなければなりません。
一般病院の治療病棟は、トップにいる医師の指示のもとにケアが動くというピラミッド型です。ホスピス病棟はケアが中心ですから、キュアとケアの合意で行う並列型が大切だと私は考えています。
この度の業務見直しは、今までどこもやったことがない医療の挑戦です。職員全員で知恵を出し合って、実りあるものにしたいと思っています。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
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│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
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