<12-2> ニコリンの有用性 その2 認知症の終末期
<12-2> ニコリンの有用性 その2 認知症の終末期
前話では、認知症終末期の患者さんが、リンデロンとニコリンの併用によって、一時的であるにせよ覚醒し、経口摂取ができた事例を書きました。
今回はその経験から、「認知症の終末期」について書いてみます。
①認知症の終末期とは
認知症が進行して重症化すると、ついには認知症の終末期といえる状態に至ります。
人間には知情意の精神機能があります。認知症はそのうち、知的な障害が前面に出てくる病気です。ですから、たとえ認知症であっても身体さえしっかりしていれば普通に歩行できます。知的能力がある程度残されていれば、会話もできます。
それがさらに進行していくと、3機能とも障害されていきます。身体機能の衰弱も相まって、ついには終末期に至ります。つまり植物状態に近くなります。
認知症の終末期とは、医学的にどう定義されるのでしょうか。
三宅貴夫医師は、認知症の終末期とは、第1に、コミニュケーションがまったく成立しなくなった時、第2に、食事の経口摂取がまったくできなくなった時、と定義しています※。
(※参照:https://www.hmv.co.jp/artist_%E4%B8%89%E5%AE%85%E8%B2%B4%E5%A4%AB_200000000344073/ )
私もこの三宅医師の定義に賛成します。
終末期になると、四肢は筋肉の廃用性萎縮(使われないために筋肉が萎縮すること)をきたし、それに拘縮も加わって動かなくなります。つまり、ベッド上に寝たきりとなります。
傾眠がちとなり、声かけに対して表情の変化は乏しく、発声発語がなくなります。
なのでコミュニケーションが全く成立しなくなるのです。
経口摂取は、嚥下機能さえ保たれていれば介助で食べられます。しかしさらに進行すると、嚥下ができなくなり、経口摂取ができなくなります。
終末期では、どこまで延命処置を行うかという問題が必ず生じます。
経口摂取ができなければ、できる延命手立ては、胃瘻造設や経鼻胃管の挿入、点滴による栄養水分補給となります。
この時期における胃瘻造設は、社会的に反対論があり、それを希望しない家族も多くいます。
家族が胃瘻造設を希望しない場合、おおかたの精神科病院は退院を迫ります。
当院は、そういう境遇の患者さんの受け皿的な役目もになっています。
看取りのための入院ということです。
②リンデロンとニコリンの併用
看取りのための入院という場合でも、少しでも人間らしい終末期を過ごさせてあげるのが、医療者の大切な役目だと思って、私たちはやっています。
緩和ケアでは、衰弱に伴う倦怠感などを取るために、ステロイド剤のリンデロンがよく使われています※※。
(※※参照:https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents5/31.html )
リンデロンの効果は、私の経験では、早い例だと数時間で出てきます。次第に元気が出てきて食欲が出ます。食べられなかった人が食べられるようになります。傾眠がちだった人が開眼してしゃべるようになります。
そこにさらに脳代謝賦活剤のニコリンを加えると、意識がしっかりします。寝たきりに近かった人が、眠りから覚めたように、声かけに反応するようになるのです。
認知症の臨床経験豊富な河野和彦医師は、「コウノメソッド」という自らの経験から得た知見をまとめて本を出しておられます。その中でこのニコリンの効果について書かれています。
外来患者にニコリン1000mgを注射すると、その途端、ぼんやりしていた意識がしっかりして、顔つき、行動がしっかりするという記述があります。
リンデロン(2mg)とニコリン(500mg×2)を同時に使うと、その相乗作用によって、驚くほどADLが改善する人がいるのです。
ただしその改善も、終末期においては一時的なものです。
しかしたとえ一時的であるにせよ、このようにADL(日常生活動作)が改善されれば、本人のQOL(生活の質)は格段に向上します。
今回提示した事例では、2人とも入院時から意識は傾眠がちで、しかも食事の経口摂取ができない状態でした。看取りのために他院から紹介された患者さんです。
その人たちが、1か月間という短いひと時ではありましたが、リンデロンとニコリンを使って、しゃべり、食べることができたのです。
そのひと時に、家族との間に良い思い出を作って上げるのも、大事な仕事です。スタッフはいろいろ工夫しました。
例えば1階ホールで、患者さんが点滴をしながら、リクライニング車椅子に乗って家族に面会しました。アイスクリームなどを食べるのを家族に介助してもらいました。患者さんと家族との交流を図ったのです。
家族が感激したのは言うまでもありません。
翻って考えてみますと、終末期にまで至らない事例では、これらの薬の効果はなおさら良いはずです。上手に使えば、患者さんのADLやQOLを大幅に向上させるものと確信します。
適用のある患者さんには、是非とも使ってみられることをおすすめする次第です。
☆追記)リンデロンを使う時は、ステロイド剤の副作用を念頭においてお使いください。当ページの[5章 病気もいろいろ患者もいろいろ <38> 名診誤診迷診-ステロイドは妙薬 -「凧の法則」https://ncode.syosetu.com/n8651bb/151] をご参照ください。
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