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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
7章 私の高齢者医療の実際
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<3> 血中酸素飽和度は重要なバイタルサイン

<3> 血中酸素飽和度は重要なバイタルサイン


 血中酸素飽和度は、SATサットまたはSpO2と臨床現場では呼ばれています。


 挿絵(By みてみん)

  図 パルスオキシメーター(SpO2測定器)


 これは、血液中のヘモグロビン(赤血球)の何%に酸素が結合しているかを表しています。 (標準値は 94%以上です )(⇒豆知識①)


 私は日頃、血圧や脈拍、体温などのバイタルサイン以上に、SATを注視しています。


 あるとき60代の男性患者さんが、当院(精神科病院)に入院して来ました。


 脳出血後の認知症、つまり血管性認知症で、右片麻痺がありました。


 入院後しばらくは、特別変わったことはなかったのですが、ある日の夜中、呼吸苦とSAT(80%台)の低下を認めました。


 30分ほど続くとそれは消失し、翌朝にはおさまってしまっているのです。


 心電図を取りましたが、狭心症などの虚血性変化は見られません。


 胸のレントゲン写真でも、肺炎のような異常所見はありません。


 そのまま様子を見ることにしました。


 ところが、です。


 それから数回、同じような症状を認め、SATも低下しました。


 SATが80%台に下がるのは、心臓や肺に必ず何らかの異常があるとにらみ、高次の病院に紹介することにしました。


 高次病院では、心臓、肺の精査をしてくれました。


 そこで見つかったのが、なんと「肺血栓症」でした。SATが下がるはずです。(⇒豆知識②)


 カテーテル操作でその血栓を除去し、事なきを得ました。


 以後、夜中のエピソードはなくなりました。


 肺血栓症の場合は、熟練した目で見ないと、胸部レントゲン写真では見逃してしまいます。


 SATが低下したことを重視して、高次病院に転院させたことは正解でした。


 SATは、私がバイタルサインの中でも、もっとも重視しているサインです。


 SATが少しでも低下した場合には、胸部レントゲン写真やCTなどで精査することがベターだと考えています。


 よくある病気は、肺炎や心不全です。


 それらは胸部レントゲン写真で容易に診断がつき、すぐ対処できるのです。


 SATが有益だった事例を、もう1例上げます。


 2022年2月に当院でコロナ院内感染が発生しました。


 その時、突然、90歳の男性患者のSATが90%を切ったのです。日頃データを見てみると、96%前後あります。


 彼は独りで普通に歩くことができ、しかも発熱や呼吸苦など、なんの自覚症状もありません。


 胸部レントゲン写真を撮りました。


 すると、一部、スリガラス様陰影ともいえる軽い肺炎が見られました。


 コロナウイルス感染による肺炎と診断して、次のような治療をしました。


 鼻腔カニューレを装着し、酸素2 L/分の投与で、SATは95%前後に上がりました。


 挿絵(By みてみん)

   図 鼻腔カニューレ


 経口から、ツムラ27番3包 分3、カロナール3T 分3、レバミピド3T 分3、レボフロキサシン2T 分1、フラジール3T 分3、リンデロン2mg 分1、ビソルボン6T 分3 を投与しました。(⇒豆知識③)


 去痰にネブライザーを午前午後の2回、毎日行いました。


 4日後に撮ったレントゲン写真で、肺炎は少し改善していました。


 劇症化することはないと私は診て、そのまま経口治療を続けました。


 正常なSATを保つのに、最初の1週間は酸素が必要でしたが、それ以後は酸素なしで94%を超えることができました。


 17日後に撮った胸部レントゲン写真で、肺炎はきれいに治っていました。


 これら2つの事例を見ても分かるように、バイタルサインを取る時は、体温、脈拍、血圧とともに、SATを必ず計るべきだと私は思っています。


☆豆知識


①血中酸素飽和度(SpO2):肺から取り込まれた酸素は、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。


 酸素飽和度(SpO2)とは、血液(動脈血)の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているか、皮膚を通して(経皮的に)調べた値です。


(追記:SpO2は「oxygen(酸素)のsaturation(飽和度)をpercutaneous(経皮的)に測定する」という意味です)


 装置のプローブにある受光部センサーが、拍動する動脈の血流を検知し、光の吸収値からSpO2 を計算し表示します。


 一般的に96~99%が標準値とされ、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性があるため、適切な対応が必要です。


参照:一般社団法人日本呼吸器学会 www.jrs.or.jp/


②肺血栓(塞栓)症


 肺血栓(塞栓)症とは、肺の血管に血のかたまり(血栓)が詰まって、突然、呼吸困難や胸痛、 ときには心停止をきたす危険な病気です。


 この病気は、長時間飛行機に乗った際に起きることもあり、「ロング・フライト血栓症」とか「エコノミークラス症候群」と呼ばれました。長期入院中や手術後にも発生します。


☆危険因子


 寝たきりの状態

 手術時あるいは手術後

 脱水状態

 静脈血栓症の既往

 先天的な血液凝固異常

 心疾患、悪性腫瘍、脳卒中の既往

 下肢の骨折で自由に動けないとき、など


参照:https://www.chp-kagawa.jp/guide/nyuin/n4/


③ツムラ27番:漢方薬/カロナール:消炎鎮痛剤/レバミピド:胃薬/レボフロキサシン:抗生剤/フラジール:抗生剤/リンデロン:ステロイド剤/ビソルボン:去痰剤


───────────────


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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