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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
7章 私の高齢者医療の実際
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<1-8> (1) 食べさせ上手 ⑧ 目の前のお膳

<1-8> (1) 食べさせ上手 ⑧ 目の前のお膳


 80代の女性です。


 認知症は高度ですが、ADL(日常生活動作)は、自分で歩け食べることもできました。


 ところがあるとき、1か月続く下痢をしました。


 ひどい水様の下痢なので、毎日が点滴の日々です。下痢の回数と便量から計算して、1日2000cc ほど点滴しました。


 食べるとすぐ下痢するので、経口摂取は下痢止めとわずかな栄養補助剤くらいでした。


 当院はいっさいの拘束はしない決まりです。


 テーブルの椅子に座らせて、腕に刺した血管ルートを袖の下をくぐらせ、首の後ろから外に出し、点滴台につるしました。


 よくぞ1か月間も、その姿勢で我慢できたものだと感心します。


 だんだんと下痢もおさまり、経口摂取を再開しました。


 ところが長い間食べていないので、「食べることを忘れてしまった(この表現がピッタリです)

」かのようになったのです。


 そこでスタッフは介助して食べさせました。


 咀嚼や嚥下の機能は残っています。介助すればなんとか食べられます。


 ところが何日経っても介助しないと食べません。


 前は自分でちゃんとスプーンを持って食べていたのに、自分からは食べなくなってしまったのです。


「介助なしに食べさせるにはどうしたらいいか」


 スタッフみんなで考えました。


 そうこうしているうちに、ふと師長さんが言いました。


「本人の前にお膳をおいておきましょう」


 食事一式がのったお膳を、本人の前におきっぱなしにしておきました。


 スタッフは少し離れたところで、患者さんの様子を観察しています。


 最初は当然食介しょっかいしてくれるものと思って、患者さんはじーっと待っています。


 ところがいつまで経ってもしてくれないので、ついに目の前にあるお膳に手をのばして、コップを取ったのです。


「コップを持った!」


 歓声が上がりました。


 翌日には、茶碗やスプーンを持って食べ出したのです。


 これにはスタッフみんな驚きました。


 「押して駄目なら引いてみよ」ですね。


 スタッフは、それまで、患者独りでは食べられないと思い込んでいました。


 なので、食事が始まるとすぐ介助してしまい、いつまでたっても自立しなかったのです。


 ただ、患者さんによっては、どんどん口の中に入れてしまい、喉詰まりする危険があります。


 なので、はじめのうちは注意深く見守る必要があります。


 その2年後現在も、この患者さんは自立で食べておられます。


 「食べさせ上手(⇒私め)」にとっては、食事のケアに大いに役立つ経験をしました。


〈つづく〉


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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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