<1-8> (1) 食べさせ上手 ⑧ 目の前のお膳
<1-8> (1) 食べさせ上手 ⑧ 目の前のお膳
80代の女性です。
認知症は高度ですが、ADL(日常生活動作)は、自分で歩け食べることもできました。
ところがあるとき、1か月続く下痢をしました。
ひどい水様の下痢なので、毎日が点滴の日々です。下痢の回数と便量から計算して、1日2000cc ほど点滴しました。
食べるとすぐ下痢するので、経口摂取は下痢止めとわずかな栄養補助剤くらいでした。
当院はいっさいの拘束はしない決まりです。
テーブルの椅子に座らせて、腕に刺した血管ルートを袖の下をくぐらせ、首の後ろから外に出し、点滴台につるしました。
よくぞ1か月間も、その姿勢で我慢できたものだと感心します。
だんだんと下痢も治まり、経口摂取を再開しました。
ところが長い間食べていないので、「食べることを忘れてしまった(この表現がピッタリです)
」かのようになったのです。
そこでスタッフは介助して食べさせました。
咀嚼や嚥下の機能は残っています。介助すればなんとか食べられます。
ところが何日経っても介助しないと食べません。
前は自分でちゃんとスプーンを持って食べていたのに、自分からは食べなくなってしまったのです。
「介助なしに食べさせるにはどうしたらいいか」
スタッフみんなで考えました。
そうこうしているうちに、ふと師長さんが言いました。
「本人の前にお膳をおいておきましょう」
食事一式がのったお膳を、本人の前におきっぱなしにしておきました。
スタッフは少し離れたところで、患者さんの様子を観察しています。
最初は当然食介してくれるものと思って、患者さんはじーっと待っています。
ところがいつまで経ってもしてくれないので、ついに目の前にあるお膳に手をのばして、コップを取ったのです。
「コップを持った!」
歓声が上がりました。
翌日には、茶碗やスプーンを持って食べ出したのです。
これにはスタッフみんな驚きました。
「押して駄目なら引いてみよ」ですね。
スタッフは、それまで、患者独りでは食べられないと思い込んでいました。
なので、食事が始まるとすぐ介助してしまい、いつまでたっても自立しなかったのです。
ただ、患者さんによっては、どんどん口の中に入れてしまい、喉詰まりする危険があります。
なので、はじめのうちは注意深く見守る必要があります。
その2年後現在も、この患者さんは自立で食べておられます。
「食べさせ上手(⇒私め)」にとっては、食事のケアに大いに役立つ経験をしました。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
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