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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
7章 私の高齢者医療の実際
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<1-1> (1) 食べさせ上手 ① まず氷片

<1-1> (1) 食べさせ上手 ① まず氷片


挿絵(By みてみん)


 食欲は生命力のバロメーターといわれています。食欲があるうちは、生命は大むね大丈夫なのです。


 病気で一時的に落ちた食欲が回復すると、病気もそれにつれて回復します。


 私は日頃の診療で、病気の重症度の見立てに、「食欲」を重視しています。


 つまり、食べられるようにすることを、病気治療の目標にしているのです。


 それに加えて、高齢の患者さんにとっては食事が楽しみの一つです。(←(^ω^)誰にとってもだよね)


 自分で食べられる人は良いのですが、介助が必要な人もいます。


 そういう時は、食事介助も大切な一つの医療(介護)技術となります。


 認知症専門の精神科病院に赴任してから、特にそれを強く感じます。


 私はナースに「食べさせ上手」という呼称をちょうだいしています。食べられない人に、あの手この手とアイデアを出して食べさせるのが上手だからです。(←(^ω^)手前味噌だね!)


 時には「拷問だ」と揶揄やゆされることもあります。むせてしかたない人に積極的に食べさせるので、まさに水責め(みずぜめ)の刑のような光景になることもあります。


 「食べさせ上手」の称号(?)をナースにもらったいきさつを、思い出しつつ書いてみます。


①氷片を食べさせる


挿絵(By みてみん)


 私が食事介助に関心を持った最初の患者さんです。


 アルツハイマー型認知症の70代男性でした。


 入院当初は、ゆっくりと歩行することができました。


 しだいに認知症が進み誤嚥性の肺炎を起こし、衰弱して寝たきりの状態になったのです。


 10日間ほどの点滴で肺炎は軽快したので、経口摂取を再開しました。


 ところが、です。


 飲み込みが悪く、口の中に溜め込んでしまうのです。


 スタッフは誤嚥してまた肺炎を起こすのを怖がり、試飲を嫌がりました。


 そこで私に白羽の矢が立ったのです。


 日頃食事介助などめったにしたことがありません。ナースが怖がるくらいですから、私もおっかなびっくりです。


 ベッドに寝たままの状態で、左側臥位、つまり左を下にして寝かせました 。氷を1cm大に小さく砕いて、スプーンで口の中に入れました。


 しばらく何も食べてない人は、口の中の感覚が鈍くなっています。口の中に物を入れても食べようとしないのです。それを私は、「食べることを忘れてしまう」と表現しています。


 そこで、熱い冷たいという物理的な刺激のあるものならどうかと考え、氷片を試してみたのです。(←(^ω^)熱いとヤケドしちゃうもんね。冷たいのにしました)


 薄い氷片を歯の隙間から押し入れると、患者はその冷たさに目を丸くしました。「冷たい!」と思ったのでしょうね。そしてそれをしゃぶり出したのです。


 しゃぶっている間に氷が少しずつ溶けて、口の中の左下の方に溜まっていきます。ある程度溜まると、むせることなく上手にごくんと飲み込んだのです。


 続けて入れていると、その氷片をガリガリと噛み、そしてそれを上手に飲み込んだのです。


 私は喜び勇んでスタッフに報告しました。(←(^ω^)スキップしてたよ)


「先生がやったんだから、私たちに責任はないわよね。やりましょう!」


 それからスタッフたちは、同じように氷片を与え、だんだん増やしていきました。


 飲み込みが上手になってきたのを見計らって、徐々に氷以外の固形物例えばゼリーなどに変えていきました。


 そしてついには、お粥を食べるまでに回復したのです。


 さらにまた、ゆっくり歩くことも出来るようになりました。倒れる前と同じくらいに一時ひとときはなったのです。


 しかし長くは続かず、半年後には認知症がさらに進行して、帰らぬ人となりました。


 長らく禁食だった患者さんに、最初に経口摂取を試す時は勇気がいるものです。小さな氷片はとても有用です。


 それでも誤嚥が心配な患者さんには、次話に書く「ガーゼ氷」がいい手ですよ。


乞うご期待。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│ 『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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