<4-14> 私の診療心得 ⑭ 「他人事と思っていると身につかない」
<4-14> 私の診療心得 ⑭ 「他人事と思っていると身につかない」
「人ごとではない」という言葉があります。他人の事だと思ってなおざりにしていると、やがて自分の身の上にも及んでくるという意味合いです。
この言葉を示唆する出来事がありました。
ある時、私の勤務病院で医局会がもたれました。
院長が、病院内で起きた薬剤性肝障害の事例について、医師に注意喚起をしました。
国には「医薬品副作用被害救済制度」があります。文字通り、医薬品の副作用で被害にあった患者さんを救済する制度です。
うちの薬剤性肝障害の患者さんが、この給付請求を行ったところ、当局に門前払いされてしまったというのです。
これは私が係わった事例です。経緯を少し詳しく書いてみます。
ある時、内科外来をやっていると、40代の女性がやってきました。
一見して、黄疸があることがわかりました。
カルテを見るとその日は再診で、初診はほかの医師が担当しています。
初診時の病名は、高血圧症でした。
初診時でもらった降圧剤と抗血栓剤(商品名:パナルジン)を飲んだところ、具合が悪くなり、体が黄色くなって私の外来に来たのです。
明らかに薬剤性の肝障害と思われました。
すぐ入院させました。
血液検査をすると、総ビリルビンは10近く(正常は1以下)で、GOT(AST)、GPT(ALT)、ALPも上昇し、薬剤性肝障害と診断しました。
肝庇護剤などの点滴で治療をしました。
幸い肝障害は劇症化することなく、日ごとに改善しました。数週間後には黄疸は消え、GOT、GPT、ALPも正常化したのです。
そして退院していきました。
私は後日、薬剤性の肝障害なので、厚労省の「医薬品副作用被害救済制度」を利用することを患者さんにすすめました。
患者さんは了解し、私は申請書類を作りました。
その申請書類は、すこぶる記載事項がたくさんあって、大変やっかいなものです。
しかし患者さんの救済のために、私はそれを作りました。1週間ぐらいかかったように思います。
やっとのこと提出すると、なんとあっさりと、「初診時に、そんな薬を降圧剤といっしょに出すのは論外だ」と、当局に門前払いされてしまったのです。
手間ひまかけてやっと書類を作ったのに、あっさり却下されてしまったことに愕然としました。
患者さんは、その結果を了解してくれました。
以上が、私の係わった薬剤性肝障害事例の詳細です。
このような出来事に遭遇して、院長が医局員に注意を促したのでした。
ところが、です。
初診時にその薬を処方した当の医師が、笑いながら言いました。
「よくもまあ、そんな馬鹿な処方をしたもんだ。ハハハ……」
それを聞いて、私は頭に血がのぼりました。
(どれだけ、肝障害の治療と救済申請書を作るのに労力と時間を要したか、わかってるのか!)
これは黙っているわけにはいかないと思い、ドクター名指しで、その経緯を話しました。
そうでもしなければ、他人事と思って反省することがないと思ったからです。
名指しで私に指摘されたその医師は、反省するどころか、実名をあげたことに憤慨していました。
後ほど冷静になって考えてみれば、個別に指摘すればよかったかなと反省もしました。その時は、そうとう頭に血が上っていたんですね。
「他人事と思っていると身につかない」
何人も心しておく言葉ですね。
〈つづく〉
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│《 ホスピスを造ろう 》
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│『神との対話』との対話 英訳版
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