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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-10> 私の診療心得 ⑩ 「患者の費用負担を考える」

<4-10> 私の診療心得


⑩ 「患者の費用負担を考える」


 医療や福祉は、お金と密接に関係しています。大きくは国家財政、小さくは医療費の個人負担というようにです。


 患者さんの費用負担を考えてあげることは、医療者として大切なことだと私は思います。


 私も父の介護をして、遅まきながらそれを実感したのです。


 私の父は、2007年、94歳で亡くなりました。


 父は愛知県に老夫婦同居し、近所に住む長男の世話を受けていました。


 私たち夫婦は遠方の横浜に居て、間接的に父を世話していたのです。


 亡くなる8か月ほど前から、衰弱して父は介護が必要となりました。


 私の妻には、実の両親を介護した経験がありました。


 なので、妻が愛知の方に時々電話をしたり出かけたりして、父とその介護をする母を、訪問診療や看護、ヘルパーさんの手配などをして、サポートしてきました。


 次第に父のADL(日常生活動作)は低下して、寝たきり状態となりました。自身の介護が必要なほど腰の悪い母が、食事を食べさせたり、オムツをかえたりして、疲労困憊してきました。


 ショートステイに月に一度行くことにして、すこしでも母を休ませることにしました。それも2か月と続きませんでした。老老介護は無理と判断した私たちは、病院か施設に入院させることにしました。


 しかし当時は、施設はすぐには入れません。病院も急性病ではないので、療養型病棟のような慢性病棟に入院するしかなく、これまたすぐには入れません。


 介護付有料老人ホームも考えました。ひとまずそこに入所しておいて、老人保健施設や特別養護老人ホームの順番が来たら、そちらに移るようにすることを考えたのです。


 そこで有料老人ホームを当たってみました。


 ところがです。


 有料老人ホームは、入居金1000万円、介護費月20万円以上と、とても高額なものでした。裕福でもない両親には、いくら工夫してもそのお金は捻出できません。


 ここで初めて、高齢者が施設で生きていくには、大変なお金がかかるものだと我が身のこととして痛感しました。40年近く医者をやっていたのに、です。


 老健施設や療養型病院には、入居金こそありませんが、毎月の実費が10~20万円かかります。


 余命の目安が立っている場合は、計算が出来て、総計いくらくらいが必要かがだいたい分かります。


 ところが認知症などで、身体が元気であったりすると、予後10年、20年ということもあり得、目処が立たない場合もあるのです。


 その費用は、患者本人かその身内に財産がなければ、支払えるものではありません。


 つまり施設や病院に入院できる人は、選ばれた人たちなのです。


 招かれざる人たちは、「家族の手による温かな在宅介護」という、いかにも聞こえの良い、ひっ迫する財政政策の犠牲者となるか、入院の順番待ちとなっているのです。


 介護を受ける高齢者が単身の場合は、ある程度の財産があれば、それを使い切って、施設に入ることが出来ます。


 しかし、夫婦とも高齢である場合は、残される人の余生も考えなければなりません。全てを使い切ってしまったら、残された配偶者は暮らしてゆけません。


 当院(認知症専門の精神科病院)に入院される方々は、本人がそれだけの財産をお持ちか、血縁者が出し合って、入院されています。しかしその負担は大変大きいはずです。


 そこにさらに治療行為で費用が増せば、ますます大変な負担です。


 入院中に、新たな病気が発症して治療が必要になった場合、


「これくらいの費用がかかりますがよろしいでしょうか」


と、保護者に聞いてあげることも、親切なことと思うようになりました。


 家族の方から、「経済的に大変なので、これ以上の延命治療は結構です」とは、なかなか言えないからです。


 私としては、どうしてほしいのか希望を本音で言ってほしいと思います。


 できるだけのことをやってほしいと希望する家族もいます。ほどほどでいいという家族もいます。そのどちらでも私はおかしいとは思いません。


 そうすれば、人間の尊厳性というもっとも基本的なことは、ないがしろにせず、経済的な側面も考慮に入れて、いろいろなやり方を工夫してあげられると思うのです。


 余談ですが、横浜の病院で院長をやっていた時、こんなことがありました。


 若い青年が外来に来ました。


 本人は何科にかかったらいいのかわからないので、ひとまず近くの病院に来たのです。


 診察室で話を聞いて、


「それは〇〇科に行った方がいいね。うちにはないからそこに行きなさい」


 初診料は取りませんでした。これくらいのことで、高い初診料を取るのは気が引けたからです。


 「取ってください」と事務長に怒られました。


 そんなことをやっていたので、その病院は儲かるはずもありませんでした。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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