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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-13> 私の診療心得 ⑬ 「1人の指令者が指示を出す」

<4-13> 私の診療心得


⑬ 「1人の指令者が指示を出す」


 「船頭せんどう多くして、船、山に登る」ということわざがあります。


 集団の中に、指令を出す人がたくさんいると、物事は混乱し、あらぬ方向に行ってしまうという意味合いです。


 火災などの緊急事態が起きた時に、人間はどんな行動を取るかを追跡した実験があります。


 参加者を200人ほど募り、映画館のような会場に入ってもらいます。出口は1つしかありません。


 館内で火災が発生し、一定時間内に外に出ないと死亡するという、シミュレーション実験で、指令者がいる場合といない場合の、2通りの状況を設定しました。


 前者では、火災発生時に、事前に決められた1人の指令者が、出口に群がった人たちを、順に外に出るように指示しました。


 後者では、指令者は無く、みんな勝手に行動するようにしたのです。


 結果は、指令者のいた場合は、一人も死亡者が出ませんでした。


 一方、指令者のいない場合は、出口に人が殺到して動けず、9割が死亡という結果になってしまったのです。


 緊急事態、特にパニックに陥いるようなときには、1人の指令者がきちんと指示を出すことがいかに大切かが、この実験から分かります。


 医療においても、緊急事態、例えば患者の急変のようなときには、治療をリードする指令者がいないといけません。


 慢性期病院で2つの事例を私は経験しました。


 1例目です。


 ある時、病棟で患者が急変しました。私が呼ばれて、いろいろな指示を出しました。


 ところが病棟師長は、救急医療の経験があまりありません。


 師長は、私が指示したことを違った内容でスタッフに伝えてしまいます。


 例えば、「ソルコーテフ200mg静注」と指示を出すと、普通なら、ソルコーテフを生食20mlに解いて静注します。


 ところが彼女は、「100mlの生食に入れて」と指示してしまいました。


 ワンショットで静注したいのに、これではうまくいきません。


「あなたは外にいてください」


と師長に言うわけにもいかず、私は見つめていました。


 現場は万事がこんな調子でした。


 2例目です。


 2020年にコロナが流行り出した時、病院内でのコロナ対策を話し合いました。


 会議中に私は、もし院内感染が起きればおそらくパニック状態になるので、その時の指示系統をしっかりと決めておくことが重要だということを、執拗しつように話しました。


 しかしその場では、軽視されてしまいました。


 2年後(2022年)の2月に、コロナの院内感染が実際に起きました。


 やはり病棟はパニック状態になりました。


 5日間で3病棟(170人)に感染が広がったのです。


 病棟はそれぞれ閉鎖病棟となりました。現場は連携が取れず混乱し、指示が入り乱れました。


 感染が収まった後に、反省会が持たれました。


「指令者がいないことが現場の混乱をもたらした」


 そういう意見が多く出されました。


 緊急事態、つまり医療でいえば救急のような時は、「1人の指令者が指示を出す」という態勢にしないと現場は混乱するということを、身をもって私は経験したのです。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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