<4-11> 私の診療心得 ⑪ 「何事も準備が大事」
<4-11> 私の診療心得
⑪ 「何事も準備が大事」
公立病院の外科時代にこんなことがありました。
当時はまだ麻酔科は、病院の診療科として独立しておらず、非常勤の麻酔科医が担っていました。
ただ、麻酔科医の担当する手術は、特別大きな手術の時のみでした。例えば、消化器なら肝臓、膵臓などの大手術です。
なので、普通の外科手術の時は、外科のドクターが交互に麻酔を担当していました。
ある時、女性患者の手術の麻酔を私が担当しました。
麻酔の手技はだいたい決まっています。型通りに準備をします。
まず手背の血管に留置針を刺入し、血管ルートを取ります。
普通は簡単に取れるので、医師は立ったまま行います。
私も立ったままやりましたが、女性患者で血管が細いせいもあり、なかなかうまく血管に入りません。
そこで手を変えてみることにして、同僚の外科医と交代しました。
すると彼は、手術室の脇に置いてあった丸椅子を持ってきて、手術台の横に置きました。
そこに腰掛けて体勢を整え、見事一発で入れました。
「なぜ丸椅子を持ってきたの?」
私が尋ねたら、
「血管に集中するためです」
「なるほど」と思いました。
局所に集中するためには、なるべく安定した、しかも手が自由になる姿勢がベストなのです。
その外科医は、後に外科部長になりました。
もう一例、同じような経験があります。
看護師さんです。
血管が入りにくい患者がいました。しかも、じっとしておれない人です。
日勤から夜勤に移行する時間帯でしたので、人手が少なくなっています。
補助してくれるスタッフは一人しかいません。
ナースは足の血管を狙っています。
急いでいるので、ベッド柵をつけたまま、ベッド下端から無理な姿勢で試みています。
血管が出ない人なので、なかなか入りません。
痛いので患者は動きます。
悪循環です。
そこで私は言いました。
「体勢を整えなきゃ。その姿勢じゃ、手が安定しないし、血管に入る感触もはっきりしないでしょ」
そこで、ベッド柵を取り外し、患者の脇に密着してしゃがみ、体勢を整えました。
すると一発で入れることができました。
大事はいうまでもなく小事でも、集中するための準備が必要であることを、あらためて私は知りました。
〈つづく〉
┌───────────────
│いのうげんてん作品
│
│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
└───────────────




