<4-9-3> 私の診療心得 ⑨-3 「キーパーソンが鍵」ー モンスターペイシェント
<4-9-3> 私の診療心得 ⑨-3 「キーパーソンが鍵」ー モンスターペイシェント
最近では、学校で教師に自己中心的で理不尽な要求をつきつける親をモンスターペアレントと呼ぶように、医療現場で、医療者や病院に対して理不尽な要求、暴言・暴力を繰り返す患者やその保護者をモンスターペイシェントと呼ぶようになっています。(参照:Wikipedia)
非常識な人というのは、いつの世にもいるもので、私も時に出くわすことがありました。
ただ、「なに~!この人……」と思うていどで抵抗しませんから、問題になったことはありません。
驚いた例はあります。
患者は30近くの男性で、夜中の時間外に夫婦で来院しました。症状は高熱と咳でした。
私が診察しましたが、風邪にしてはどうも症状が強いので、私のいつもの常套手段、
「いつもの風邪と同じですか」
患者に聞いてみると、
「少し強い」
といいます。肺炎の可能性を考えました。
夜間帯で胸部レントゲン写真は撮れないので、「まんいち病状がひどくなった場合は危険だから、明日検査するまで、入院しよう」と話しました。
両人とも納得して、患者は入院しました。私はすぐさま、肺炎として抗生剤の点滴治療を始めました。
その時ちょっと感じたのは、「この奥さん、旦那より強そう……」ということでした。夜中に来た割には、態度がデカイのです。普通の人は夜中に来ると、「夜分すいません……」的な態度をとるものですが、それがありません。
翌朝、胸部レントゲン写真を撮りますと、右の肺底部の肺炎でした。
患者は、大の大人で、 そんなに重症でもないので、説明すれば、十分理解できます。 ベッドサイドで胸の写真を見せて、ここが肺炎で、抗生物質で治療していることを、患者本人に説明しました。
本人も了解して、感謝していました。私は当然、その話を奥さんに本人が伝え、奥さんも足早にかけつけるだろうと思っていました。
肺炎の治療をして2日目に、奥さんが血相を変えてやって来ました。感謝するのかと思いきやいきなり、
「病院を変えたい」
というのです。
夜の時間外に来て、しかも、肺炎の診断は正しかったのに、なぜかと訝しがっていると、
「家族に説明しないのはおかしい」
と、いきりたって言うのです。取り付く島もありません。
患者が子供だったり、重症だったりして、家族に説明しなければならないようなときは、こちらからすぐ連絡します。
しかし当時は、普通の場合、家族の方から説明を希望して、病院で待っているものです。夜中の入院以来、1度もその奥さんは、来院しませんでした。
やっと来たと思ったらいきなり、「医者の方からいってくるのが当然だ」といい張ります。そして「こんなおかしな病院はダメだ、よそに転院する」と言い出したのです。
「紹介状を書きましょう」といいますと、「そんなものお金がかかるからいらない」
けんもほろろに、退院していきました。
私はおかしな家族だなと思いましたが、深追いはしませんでした。「深追いはするな」が私の信条です。
20年医者をやっていて、医療界での常識というものがあるのですが、時には、常識が通じない人もいるものだと、慨嘆したものです。
あるいは時代が変わってきているのでしょうか。
私が医者になりたての頃は、医者にも患者にもそして家族にも人間味があって、医療が楽しかったですね。いっしょに喜んだり泣いたりしたことが何度あったことでしょうか。
「触らぬ患者にたたりなし」とはよく言ったもんだなあと、最近はつくづく感じています。
そういった社会の風潮を感じ取って、開業医の先生方は、夜は電話は通じないようにしています。
病院では、「先んずれば人を制す」とばかりに、医師、ナース、ケースワーカーが、面接官よろしくテーブルに並んで座り、家族への病状説明を行います。最後にはその説明要約文書に、了解しましたと言う署名をさせるという、ものものしさです。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│ 《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│ 《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│ 『神との対話』との対話 英訳版
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