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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-8-7> 私の診療心得 ⑧-7 「死と向き合う」ー 人は生きてきたように死んでいく ①

<4-8-7> 私の診療心得


⑧-7 「死と向き合う」ー 人は生きてきたように死んでいく ① 本人が拒否する延命治療を家族が希望


 ホスピスケア(緩和ケア)には、「生きてきたように死んでいく」という金言きんげんがあります。


 「余命あと1カ月」となっても、急に生き方を変えることはできないのです。


 人間は「生きてきたようにしか死んでいけない」のです。


 ホスピスに入院する患者さんは、一般病院の患者さんより、その傾向が強いように感じられました。


 今でも記憶に残る患者さんの生きざまを書いてみます。


①本人が拒否する延命治療を家族が希望


 それは50代の女性患者さんでした。病気は肝臓に転移した大腸がんで、末期状態にありました。


 肝転移による苦痛が強いため、ホスピスに入院してきたのです。


 本人は熱心なクリスチャンで、最期の時には何もしないで自然に看取ってほしいという希望がありました。


 入院して1カ月ほどして病状はさらに進行し、いよいよ最期の時を迎えようとしていました。


 意識も薄らいで傾眠がちになってきたのです。


 すると、「最期の時には自然に」という本人の意思をそれまで了解していた家族が、「会わせたい人がいるから」と、延命を希望してきたのです。


 家族とスタッフで話し合いました。


 「延命治療をしないでほしいという本人の意思をどうするか」を、みんなで話し合ったのです。

 

 のこされる人々の心情を配慮して、家族の希望を受け入れることにしました。


 昇圧剤を入れた点滴を始めました。


 しばらくして、意識がぼんやりながら戻ってきたのです。


 そして、自分の置かれた状況が分かるほどになると、腕に入れられた点滴の管を見て、悲しげな表情をして涙を流すのです。


「どうしてこんなことをしているの。治療はしないと約束したでしょう」


 そう訴えるように、スタッフや家族を見つめて首を振るのです。


 家族は患者に近寄り、もう少し延命してもらうように説得を試みました。


 患者は拒否しました。


(私は神に召されます)


 長い沈黙の後、家族の同意のもとでその点滴を中止することにしたのです。


 昇圧剤の入った点滴を抜去すると、次第に血圧は下がっていきました。そして半日して亡くなられました。


 患者を取り巻く家族はすすり泣いていました。


 その光景は、かつて見たことのない荘厳なものでした。


 入院生活を通して最期まで自らの信念を貫いていくという、すさまじいまでの信仰の力を、私は目の当たりにしたのでした。


〈つづく〉

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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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