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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-8-4> 私の診療心得 ⑧-4 「死と向き合う」ー 死亡診断

<4-8-4> 私の診療心得 ⑧-4 「死と向き合う」ー 死亡診断


 法律(医師法)には、死亡診断は医師が行うとあります。


 医師が人の「生き死に」を決めるということは、考えてみると、医師は恐ろしい職業でその責任は重大です。


 老婆心ながら、死亡診断をする際の私個人のやり方を書いてみます。


 いつごろ死亡するかを確実に予見することは、いくら名医といえども出来ません。


 数日としていたものが急変してすぐ死亡することもありますし、その逆のこともよくあるからです。


 大体の目安はあります。


 身体は死に近づくにつれ、バイタルサイン(生命徴候)に変化が見られます。


 手足の色が紫色になり、むくんできます。眼球の結膜(眼球の白いところ)に、涙がたまったように小さな水玉が出たりします。このサインは、死亡が数日以内にあることを示しています。


 尿の量が急に減少しほとんど出なくなると、1日以内と見てよいでしょう。


 それまで普通に打っていた脈が、急に徐脈(脈がゆっくりになる)になったときなどは間もなく(分単位で)死亡する、といっておおよそ間違いないでしょう。


 ちなみに身体の寿命がきて、つまり生命力が尽きて経口摂取ができなくなった場合は、仮に胃瘻を造ったとしても身体(消化管)が栄養を吸収しません。点滴しても、身体がそれを利用できずにただむくんでくるだけです。


 死亡診断をするときには、死の三徴候ー「瞳孔散大(対光反射無し)、呼吸停止、心停止」が、死亡のサインとして、昔から使われています。


 そこに新しいツールとして、モニターという電子機器が登場して、脈拍や呼吸などを、監視することができるようになりました。


 今ではそのモニターを中心に、死亡診断しているといってもいいでしょう。


 つまり、モニター上の心拍、呼吸の波形がフラットになった時に、死亡と診断するのです。


 そしてその記録用紙を、死亡診断した旨を記述したカルテのところに、添付しておきます。


 ただこれだけですと、荘厳なる看取り(死亡診断)はものの1分もかからずに終えてしまいます。しかもいかにも機械的です。


 なのでデモ(演出)的に、ペンライトで瞳孔を診、聴診器で呼吸音、心音を聴きます。そして、大腿動脈を触れて拍動のないことを確かめます。


 三徴候のうち、「瞳孔散大」については、私は今まで、相当数の死亡診断をしましたが、一律に散大しているとは、どうもいえないような感触を持っています。


 つまり、散大というほど開いていないとか、左右に差があるなどなど、見事に両眼が散大している例は、半数はないような気がしています。


 おそらく多くの医師が、そういう経験をしているのではないでしょうか。


 しかし、明確な散大がないからといって問題にはせず、「瞳孔散大」と私はカルテに記載しています。


 まれにはこんなこともありました。


 夜中に当直医から電話がかかってきました。入院している高齢患者さんが急変して亡くなったのです。


「原因究明をしなければならないので、病理解剖をすべきだと思いますが……」


 そこで話し合いました。


「事件性のある場合は別として、病理解剖をして誰が得をするのだろうか」


「たとえ死因が確定できたとして、それがどれほどの意味があるのだろうか」


 そういう議論をしました。


 当直医は大学病院在籍の若い医師で、責任感が強かったのでしょう。


 高齢でしかも重度の認知症の患者さんの場合、特別の事情がない限り、私は「老衰」としています。そしてそれに関係する病気として認知症を付記することにしています。


 それにもう一つ、死亡診断書を書くときに大切なことは、うっかりミスをしないことです。


 うっかりミスで一番多いのは「字」を間違えることです。


 病名などの字を間違えることはまずありませんが(あれば勉強し直しですね)、氏名が常用漢字でないような場合は、ついついうっかりミスしてしまいます。


 お役所は、そういうミスでも受け付けてくれません。


 戸籍と照合しなければならないので、戸籍と一致した漢字でないといけないのです。


 この一字を間違えたために、役所で受け付けてもらえず、書き直しのために、再度来院された家族がいました。


 住居が近くならまだしも遠方の場合は、ただでさえ葬儀の準備などで忙しいのに、手間暇が大変です。


 くれぐれもうっかりミスをしないように、注意したいものです。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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