<4-7-9> 私の診療心得 ⑦-9 「良い思い出作り」ー 患者さんとの別れ:イエスの十字架
<4-7-9> 私の診療心得 ⑦-9 「良い思い出作り」ー 患者さんとの別れ:イエスの十字架
私が35歳の時、アフリカの難民医療を行うために、勤めていた市立病院を退職しました。
その病院に勤める前は、カンボジア難民救援でタイに赴いたのです。
当時、途上国に医療救援するには、いくら短期間といえども、勤める病院を退職するしかすべがありませんでした。
この市立病院は4年間勤めました。そこにアフリカ難民救援のミッションが私に来たのです。
病院の外科病棟には、50代の胃がんの女性患者(Mさん)が入院していました。私は彼女の主治医でした。
Mさんは胃がんの末期でした。手術をしましたが、膵臓周囲に浸潤していて、がん病巣は切除できなかったのです。
Mさんには病状告知はしていませんでした。しかし手術後1か月経過してもいっこうに改善しない病状に、うすうす本人も気づいていました。
Mさんはクリスチャンでした。
私がクリスチャンであることを知っていて、回診のときには、たびたび聖書の話をする日々でした。
アフリカへの出発の時がきました。
最後の回診の時、私はお別れの挨拶をしました。
「今のあなたの病気の苦しみは、十字架を背負ったイエスキリストの苦しみだと私は思います。その苦しみをイエスと分かち合っているという信仰で、どうぞ神様にお祈りしてください……」
最後は嗚咽して言葉になりませんでした。
偉そうな物言いですが、苦しみにじっと耐え忍ぶ彼女の強い信仰に、私にはそういう言葉しか浮かびませんでした。
Mさんはベッドから身を起こし、涙を浮かべて、
「どうぞ先生も、体を大切になさって、アフリカの地においでください。お祈りしております」
クリスチャンらしい清楚な面持ちで話される姿に、涙を禁じえませんでした。
一礼して部屋を後にしました。
お別れをして1か月後に、旦那さんから手紙が来ました。
「妻は先生と別れて寂しがっていました。そして、半月して旅立ちました」
私は祈りました。
「神よ、どうぞ彼女の信仰を祝福し、天国にお迎えください」
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
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