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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-7-2> 私の診療心得 ⑦-2 「良い思い出作り」ー 姑(しゅうと)に実名で呼んでもらったことがないお嫁さん

<4-7-2> 私の診療心得


⑦-2 「良い思い出作り」ー しゅうとに実名で呼んでもらったことがないお嫁さん


 私は今、認知症専門の精神科病院に、内科医として勤務しています。


 高齢者のケアをしていて感じることは、患者さんとその家族に、良い思い出を作ってあげることが、ケアの大切な仕事の一つだということです。


 患者さんは92才の男性Kさんで、認知症は軽度のものでした。


 キーパーソン(長男さん)は、ある一般病院の事務長さんで、 Kさんはその病院に入院していたのですが、夜間せん妄、徘徊がはげしくなって当院に転院してきたのです。


 転院後まもなくして、自力歩行中に転倒し、頭部を強く打ちました。


 その時は前額部おでこにタンコブが見られるていどでした。


 それから1か月ほどして、徐々に意識障害が出現し、傾眠(眠りがち)となりました。


 傾眠は認知症のせいとばかり思っていましたが、片マヒの出現で、急きょ頭部CTを撮ってみました。


 慢性硬膜下血腫でした。


 それはきわめて高度なもので、左側脳室はつぶれ、脳全体が右にシフト(偏位)していました。


 こういう場合は通常、緊急手術によって頭蓋骨に穴をあけて、血腫を取り除きます。


 キーパーソンは事務長なので、高齢かつ認知症の患者は敬遠されるという、世間の病院事情をよく理解されていました。


 みんなで相談した結果、リスク承知で、保存的に治療することになりました。


 グリセオール 200mlにニコリン500mg を入れて、1日2回点滴静注しました。


 すると翌日には意識が戻ったのです。


 キーパーソンのお嫁さんは毎日通って話しかけ、昔の写真アルバムを持ってきては、思い出話しをしたのでした。


 1週間後に頭部CT検査をすると、脳のシフトは少し改善していました。


 2か月半後には、ほぼ完全に血腫は消失し、脳は元に戻っていたのです。


 意識状態は完全に入院時に戻りました。


 ある時、キーパーソンのお嫁さんが、嬉しそうに私に話してくれました。


 お嫁さんは、二世帯住宅で義父(Kさん)といっしょに住んでいる時は、1度も義父に自分を実名で呼んでもらったことがなかったというのです。


 「嫁」「あんた」などだったのです。


 ところが当院に入院して、慢性硬膜下血腫を患い、いろいろな治療、ケアを受けているうちに、面会に来ては、いたわり励ますお嫁さんに感動し、初めて実名で呼んでくれるようになったのです。


 まさに、怪我けがの功名です。


 30年余りの同居生活ではじめての事だと感激して語る、お嫁さんの笑顔が忘れられません。


 その後、患者さんは次第に衰弱して、半年後に亡くなられました。長男さん夫婦は大変感謝しておられました。


 そして奥さんは、義父との心のわだかまりを修復できたことを、心から感謝しておられました。


 人は、それぞれ自分の課題を背負って人生を歩んでいるのです。それを少しでも軽くして上げられたら、「医療者冥利に尽きる」ですね。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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