<4-5> 私の診療心得 ⑤ 「女性を見たら妊娠と思え」
<4-5> 私の診療心得
⑤ 「女性を見たら妊娠と思え」
医療界には、「女性を見たら妊娠と思え」という格言があります。
それは、妊娠している女性に対して下手に医療行為を行えば、胎児に影響してしまうからです。
医療行為を行う前に、妊娠の有無について必ず確認しておくのが鉄則です。
私は、妊娠した女性にレントゲンをかけたためにトラブった例を、2例経験しています。
1例目は、私が主治医ではなかったのですが、吐き気をもよおして外来に来た20代の女性です。
すぐ胃透視をしましたが、胃は何ともありませんでした。
その後に妊娠していることが分かったのですが、主治医は妊娠について聞くことを忘れたのです。
旦那さんが文句を言いに来ました。
主治医とともに話を聞きましたが、その旦那さんは威勢をつけるために大酒をくらって、真っ赤な顔をして息巻いています。
「レントゲンの胎児への影響は、胃透視の場合はほとんどありません」
レントゲン技師といっしょにいくら説明してもらちがあきません。
挙げ句の果てには、
「もし奇形の子供が生まれたら、お前らを刺して俺も死ぬ」
脅迫してきました。
「その時はその時でまた考えましょう」
ということで、その場は終えました。
それから10カ月ほどして、幸いにも生まれた子供は正常な子でした。
「刺されずにすんだ」
胸を撫で下ろしたのでした。
2例目は私自身の経験です。
30代の女性でした。すでに1人の子供がいます。しかも、看護師さんでした。
胃が気持ち悪いと訴えて病院に来ました。
私は油断しました。
患者は看護師であること、そして、すでに妊娠の経験があることで、本人が妊娠は否定しているものとばかり、思い込んでいたのです。
女性を見たら妊娠と思えという格言を、忘れていました。
問診で妊娠の有無をしっかりと確認することなく、型通りに胃の透視をやりました。
胃には特に問題はありませんでした。
しばらくして、妊娠であることが分かったのです。
どうするか、本人と旦那さんと協議しました。
レントゲン技師が奇形発生の確率は非常に低いと説明しましたが、旦那さんが心配して中絶することになりました。
幸い大きな問題に発展することなく、その看護師さんは、後にその病院の看護職に入職しました。
その苦い経験がありますから、今ではどんな年配の女性でも、最初に必ず妊娠について聞いておきます。
70歳ぐらいのおばあさんにもそれを聞くので、看護師さんが「先生、やめてよ~」と恥ずかしがっています。
しかし、よほどのことがない限り、必ず尋ねることにしています。年齢に応じていると、忙しい時などは、ついつい聞きそびれてしまうことがあるからです。
〈つづく〉
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
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│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
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│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
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