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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)
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<3-38> 病院寸話 《67. ホスピス演劇の夢、頓挫す》

<3-38> 病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)


《その67 ホスピス演劇の夢、頓挫す》


 私が40代半ばの頃、横浜の病院に勤務していたときのことです。


 その時、病院にホスピス病棟をつくろうと一念発起し、興味のあるナースたちに声をかけました。すると、何人ものナースが呼応してくれて、まずは地ならしとして「ホスピス市民の会」を立ち上げることになりました。


 私はさらに運動を広げたいと考え、思い切って「ホスピスをテーマにした演劇を作り、社会啓発の手段にしよう」と思い立ちました。


 当時、ホスピスという言葉は日本ではまだあまり知られておらず、社会に広めるにはインパクトのある方法が必要だと感じていたのです。


 幸いにも、私の患者さんの中に、神奈川県の演劇部門で優秀賞を受賞したことのあるセミプロ劇作家がいました。


 私はさっそく彼に相談し、自分が経験したホスピスでの出来事を話し、脚本を書いてほしいと頼みました。すると快く引き受けてくれました。


 そして完成した脚本は、私の想像以上に素晴らしいものでした。


 さて、次は「どう上演するか」です。私の構想はこうでした。


 中学や高校の演劇部に演じてもらい、その過程や上演を通じてホスピスを社会的に認知してもらう。演劇そのものが目的ではなく、啓発こそがゴールだったからです。


 この話を知り合いの大手新聞記者にすると、記者は目を輝かせて言いました。


「それは面白い。全国版の記事にできますよ!」


 私は心の中で、


「よし、これで全国的な運動に広がる」


と確信しました。


 ところが、その構想を作家に伝えたとたん、彼の表情が曇りました。


「中学や高校の演劇部じゃ話にならない」


 そして数日後、彼は自分の知り合いのプロモーターを連れてきました。


 プロモーターは上演の見積もりを提示しました。


「全部で……2千万円はかかります」


 耳を疑いました。演劇は一日で終わるわけではなく、練習期間の人件費や諸経費が膨らむのだそうです。


 後日、私は尋ねました。


「この公演、採算は取れますか?」


「まず無理でしょう」


 即答でした。


 私はあくまでボランティアとしてやるつもりでしたから、興行として行うことには賛成できませんでした。


 しかし、作家は私の制止をよそに、他の知り合いにも声をかけ、話をどんどん進めてしまいます。仲間内では「このままでは大変なことになる」と一致し、中止を決断しました。


 病院の応接室でその旨を伝えると、作家は烈火のごとく怒りました。


「大将の敵前逃亡だ!」


 私は、


「そんな高額な費用を使うつもりはありません」


と、頭を下げて謝罪しました。


 最後はお詫びのしるしに5万円を渡し、手を引いてもらうことになりました。


 後から思えば、実績のある作家にはプライドがあり、自分の作品を中高生に演じさせることなど到底受け入れられなかったのでしょう。


 こうして、全国的なホスピス運動への発展を夢見た私の計画は、あっけなく頓挫してしまったのです。


 今でもあの時の無念さは忘れられません。


───────────────


〈つづく〉



┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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