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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)
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<3-37> 病院寸話 《66. 窮地に立つと本性があらわれる》

<3-37> 病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)


《その66 窮地に立つと本性があらわれる》


 私が40代、最も仕事に脂がのっていた頃です。ある倒産した病院の再建を託され、院長として赴任することになりました。


 倒産した病院には、資金的な問題はもちろんのこと、近隣からの評判の悪化、職員の士気低下、そして労働組合の圧力など、数えきれないほどのマイナス要因が渦巻いていました。


 そんな中で私が掲げたのは、「横浜で初めてのホスピス病棟をつくろう」というスローガンでした。それは再建のシンボルであり、職員の士気を取り戻す一つの希望でした。


 実際、その旗印のもとに病院の雰囲気は変わり始め、患者さんの数も増え、経営も持ち直しつつありました。


 しかし、ホスピス病棟を開設するためには「基準看護」を満たしていなければなりません。古い体制のままだった病院にはその資格がなく、基準を満たすためには看護スタッフを倍増させる必要がありました。


 せっかく収支が改善しつつあったところに、大幅な人件費の増加。その結果、再び赤字に転じてしまったのです。


 皮肉なことに、ようやくホスピス病棟の認可が下りたその月、資金不足から病院は他の医療法人へ譲渡されることになりました。


 給料の遅配、職員の退職、混乱の連続でした。


 医師たちも例外ではなく、「給料が遅れるなら辞めます」と言い残し、非常勤の医師たちは大学ごと引き上げていきました。


 そんななか、二人の医師だけは病院に残り、私たちとともに困難に立ち向かってくれたのです。


 ひとりは、ホスピス病棟を担当していた医師でした。月初めの朝礼で、彼は全職員の前に立ち、「この病院は最近、評判も良く、患者さんも増えています。きっと乗り越えられます。がんばりましょう」と力強い言葉をかけてくれました。


 さらに、「自分の給料はあとまわしでかまいません。まずは他の職員たちに支払ってあげてください」と、私に申し出てくれたのです。


 もうひとりは、大学から派遣されていた小児科の講師でした。


 私が病院の厳しい現状を説明したとき、彼は静かにこう言いました。


「私たちは、お金のためだけに来ているのではありません。患者さんのために来ているのです。給料が遅れたからといって、すぐに引き上げたりはしません。どうか安心してください。」


 このとき私は、人は本当に困難な状況に置かれたとき、その人の本性があらわれるということを、骨身にしみて学びました。


 華やかな肩書きや知識よりも、誠意ある言葉と行動のほうがどれほど人を励まし、救うことか。そして、信念をもって人に尽くす人こそが、真に尊い人なのだと実感しました。


 その後、その病院は別法人のもとでリフォームされ、今も地域に根差した病院として多くの人に親しまれています。


 「窮地に立つと本性が出る」―あのとき出会った二人の医師の姿勢は、今でも私の心に強く刻まれています。


───────────────


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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