<3-23-6> 病院寸話《目からウロコが落ちる ⑥ おでこの挫創(ざそう)》
<3-23-6> 病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)
《目からウロコが落ちる ⑥ おでこの挫創》
図 挫創
私がまだ駆け出し外科医の頃です。
外来をやっていると、70歳位の男性がやってきました。
前日転倒して、前額部を未舗装、つまり土の道路に打ちつけたといいます。
おでこを強く擦過したため、直径8センチ位の表皮が剥離してしまいました。(図)(←(^ω^)へたな絵ですいません)
表皮の3分の1はおでこに生着していて、ちょうどバナナの皮の一部をむいた様のようです。
表皮と皮下組織の間に細かい砂が入り込んでいました。仁丹くらいの大きさです。(←(^ω^) 若い人、仁丹って知ってるかな)
近くの診療所に行くと、外科ではないのでうちの病院に紹介されてきたのです。
傷そのものは大したものではありません。
傷内に食い込んだ小さな砂が、1日経っているので、皮下組織に固着しています。生食水を噴射していくら洗っても、組織に固着した小さな砂は流れ落ちません。
ピンセットで一つ一つつまみ取ろうとしても、あまりに多いために、はかどりません。
外来にはたくさんの患者さんが待っています。
どうしたらいいものか途方にくれました。
そこで生食水で洗った後、消毒し、細いテープ状のドレーン(排液管)を四方に挿入して、めくれた表皮を皮下組織の上に戻しました。
これで良くなるとは思えませんでしたが、その時にはそれしか、なすすべが浮かびませんでした。
そしてその翌日、私の先輩外科医の外来に来てもらうようにしたのです。
翌日、先輩外科医はその患者を診察しました。
すると時間がかかるとみて、外来診察すべてが終わってから処置することにしたのです。(これが第1の知恵)
外来室でなく手術室で処置しました。(これが第2の知恵)
傷全体に局所麻酔し、表皮と皮下組織を開いて、ブラシでこすって洗い流したのです。まさに洗濯するように、でした。(これが第3の知恵)
たくさん散らばった小さな砂をこすり取ってから、テープドレーンを挿入して傷を粗く縫合しました。
粗く縫合しておくと、傷内に溜まった浸出液は、その隙間から出てくるからです。
その傷は1週間後にきれいに治り、抜糸することができました。
私はその先輩の処置を見て、
「さすがだ、すばらしい!」
目からうろこが落ちました。
こういう傷の経験がなかったこと、忙しい外来なので余裕がなかったこと、外来の後にやるという発想が浮かばなかったことなどなど、本件は私の技量を超えていました。
やはり未熟だったのですね。
その時はまさに「目からうろこ」でした。
〈つづく〉
┌───────────────
│いのうげんてん作品
│
│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
└───────────────




