<3-23-3> 病院寸話《47. 目からウロコが落ちる ③大腿嵌頓ヘルニア》
<3-23-3> 病院寸話(月例朝礼・会議での寸話)
《その47 目からウロコが落ちる ③大腿嵌頓ヘルニア》
「目からウロコが落ちる」の三番目は、大腿嵌頓ヘルニアの手術の時です。(←(^ω^)内容が少々専門的ですがご容赦くださいね)
ヘルニアという病態は、ヘルニア嚢という袋と、その中に入り込む腸管などの内容物からなります。(⇒図1)
図1
なので、ヘルニアの手術法は、大雑把にいうと、内容物をお腹の中に戻し(⇒還納といいます)、ヘルニア嚢の切除を行います。
大腿ヘルニアは、ヘルニアが鼠径靭帯の下をくぐって、大腿部に脱出する病気です。(⇒図2)
図2
普通よく見られるヘルニアつまり鼠径ヘルニアは、陰嚢(⇒俗に金玉)の方に出ます。
その場合は割と簡単に元に戻せます。
しかし、鼠径靭帯をくぐって大腿部の方にはまり込んだ場合(⇒これを嵌頓といいます)は、簡単には元に戻すことができなくなります。
大腿嵌頓ヘルニアの手術手技を、若い頃、2人の指導医から教わりました。
最初の指導医の教えてくれた手技は、鼠径靭帯を切断する方法でした。
嵌頓したヘルニア嚢とその内容物を、切断された鼠径靭帯越しに、頭側に剥離して戻す方法でした。
この方法ですと、手技自体が非常に煩雑です。
鼠径靭帯を切断しますから、それを再び縫合してとじなければなりません。
下手すると、縫合した鼠径靭帯そのものが離開したり緩くなったりして、またヘルニアが再発してしまうこともあります。
もう1人の指導医の手技はユニークでした。手術はほんの一瞬で終わりました。
鼠径靭帯は切断しません。
露出したヘルニア嚢に小さな切開を入れて、その切開口から鉗子をつっこみ、ヘルニア嚢の内面を探ってその先端をつまんで、切開口から手前に引き出すのです。
紙袋に例えれば、袋の口から中に手を突っ込んで、紙袋の底を摘まんで引っ張り出します。
するとその袋は、内と外が反転しますね。
同じ要領で、ヘルニア嚢の先端をしっかりつまんで、ヘルニア嚢が反転するように引き出し、鼠径靭帯の下をくぐらせ、頭側に引き出します。
もちろんヘルニア嚢は、周囲の組織に癒着していますから、それらを丁寧にはがしながら引き出します。
すると、まったく鼠径靭帯を切断することなく、ヘルニア嚢を引き出すことができるのです。
このヘルニア嚢を切除して手術は終了です。いとも簡単です。
この手技を教えてもらった時には、「なるほど!」と驚嘆の声を上げました。
まさに目からウロコが落ちる思いだったのです。
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〈つづく〉
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