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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   病院寸話(月例朝礼・会議などでの寸話)
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<3-15> 病院寸話 《35. ナースの I さん》

<3-15> 病院寸話(月例朝礼での寸話)


《その35 ナースの I さん》


挿絵(By みてみん) 


 I (アイ)さんという女性が、私の病棟でナースとして働いていました。


 当時、五十歳くらいだと思われますが、大変やさしく笑顔で患者さんに接していました。


 その天使のような姿が、私の心に印象深く残っています。


 ある時、彼女のお父さんが、血管性認知症のために私の病棟に入院することになりました。


 アルコール依存症がひどく、挙句あげくの果てに脳梗塞を併発し、血管性認知症になってしまったのです。


  I さんの若い頃は、父親の酒癖で、生活が大変だったと彼女は言っていました。


 私の病棟に入ってからは、それほどおかしな行動はなく、これくらいの患者さんは病棟にはたくさんいました。


 二年ほど入院していて、誤嚥性肺炎を起こして、患者さんは亡くなりました。


 亡くなる少し前のある時、私はナースの I さんを褒めるつもりで、


「アル中のお父さんで、あなたは、よくそんなにも立派なナースになりましたね。お父さんが反面教師だったんですね」


 こんなことを口走ったのです。褒めたつもりでした。


  I さん本人はニコニコして無言で聞いていましたが、後で私は考えて、言い方を間違えたかな、と悔やみました。


 いくらひどい父親であっても、子どもにとっては父親に違いないのです。


 よほど関係がこじれた親子なら別ですが、普通は、たとえアルコール依存症でひどかった父親だったとしても、父親への思いは、みんな同じようにあるものです。


 患者さんが亡くなってから、ナースの I さんは、ほかの病棟に転属になりました。


 私はいつか、このことを謝りたいなと思っていました。ところが、知らない間に退職していて、それ以来会うことができませんでした。


 それから5年ほど経ったとき、毎年開かれるうちの病院の秋祭りに、ナースの I さんが、ボランティアで応援に来てくれました。


 私はその時に、


「そうだ今、謝罪しよう」


 出店を手伝っていた彼女を脇に呼んで、そのことを話しました。彼女はニコニコしながら、真剣に聞いていました。


 彼女の二人の娘さんは、ナースとして今もこの病院で、勤めています。


 秋祭りから数日して、その娘さんナースに会うと、母親がニコニコしながらその話をしていました、と伝えてくれました。


 長年、心に残っていた、わだかまりがとけ、またそれを彼女が受け止めてくれたことを、私はうれしく思いました。


───────────────


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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