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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
6章 私の医療あり方論
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<1-8> 『患者中心の医療-ホスピス』 横浜市民講座講演録 その8 ホスピスケアのやり方 ②スピリチュアルペイン

<1-8> 『患者中心の医療-ホスピス』 横浜市民講座講演録 その8 ホスピスケアのやり方


②スピリチュアルペイン


 そもそも論を言いますと、症状コントロールの中で大切なのは、痛みのコントロールです。


 痛みには、身体的な痛みを初めとして、精神的、社会的、スピリチュアル(霊的)な痛みがあります。


 精神的な痛みとは、病気に対する不安や家族との離別の悲しみなどの痛みをいい、生活や仕事の不安などの痛みを社会的な痛みといっています。


 そしてスピリチュアルな痛みは、「なぜ自分はこの世に生まれて、生きて、死んでいくのだろうか」「自分の人生の意味や役割はなんだったのだろう」「死とはどういうものなのか」「死後の世界はあるのだろうか、あるとしたらどんなところだろう」といった疑問や不安をいっています。


 これら身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな痛みは相互に影響し合い、複雑に絡み合った形で現れてきます。



☆死にどう向き合うか。


 終末期の緩和ケアで最期に重要になってくるのは、死にどう向き合うかという課題です。


 脳腫瘍の患者さんで、「天国が見える」と叫んで亡くなっていかれた方がいました。その人はクリスチャンでした。一方、前にも話しましたが、金の延べ板を眺めながら亡くなった方もいます。


 人の死生観は千差万別です。


 大体、自分がしっかりとした死生観を持っていないのに、他人の死をケアすることなどできるはずがありません。そう言ってしまえばおしまいですがね。


 私は幸か不幸かキリスト者と言う立場から、キリスト教の教えに似せて話すことができました。


 緩和ケア分野でパイオニアとして活躍しておられる昭和大学教授の高宮有介先生は、自著(⇒豆知識)の中で、スピリチュアルな痛みについての説明の中で、次のように言っておられます。


┌----------


 私はひとつの宗教をもってはいない。が、もともとこの仕事を始めたきっかけが、人間には心とからだがあり、目に見えるからだだけでなく、なかにある気なのかエネルギーなのかわからないが、その両方を支えることで人間のいろんな力が引き出せるということに興味をもったからだった。だから、肉体の死ですべてが終わってしまう、とは思っていない。肉体が滅んでも何かが残っていく、と漠然と信じていた。


 そして、救急医療やホスピスの現場に携わるなかで、患者さんの臨死体験をうかがう機会もあった。これは、亡くなったわけではないが、亡くなったようなショック状態のときに体験し、回復しても記憶していたというものだ。



 臨死の体験は少しずつちがうわけだが、みなさんが同じように言われるのは、「先生、もし死後の世界があんなところだったら、死ぬって怖くないですね」ということである。私はいま、この話を信じている。


└----------



☆宗教も一つのツール


 スピリチュアルな痛みの緩和に、宗教が役に立つなら利用しない手はありません。


 ホスピス病棟を持つ病院の多くは、キリスト教系の病院、仏教系の病院ですが、AK病院は、特定の宗教を持っていません。けれども、宗教がホスピスケアに有用なら、それを利用しない手はないのです。


 終末期の癌患者さんは、いくら薬だとか、痛み止めを使っても、どうしても消えない、死んだらどうなるんだろうかという不安や、あるいは家族と別れることの寂しさなど、いろんな精神的スピリチュアルな痛みがあるのですね。ですから、私は宗教を、患者さんの心を穏やかにしてあげるために、大いに活用したいと思っているのです。


 しかし、それを押しつけるのはいけません。宗教の伝道、押し付けになってしまうのですね、病院の中で「あなた、この宗教どうですか」と、押し付けるようなことはやってはいけないのです。


 伝道と宗教の活用の違いは微妙なもので、下手すると混同されてしまいます。


 それでどうやって伝道ではなく、宗教を活用するかということを、みんなで知恵をしぼり考えました。



☆個人の信仰は認めるが布教は禁止


 AK病院には、会堂がホスピス病棟内にあります。会堂というのは、静かにお祈りしたり、瞑想にふけったりする20畳ほどの部屋です。


挿絵(By みてみん)

   図 会堂


 窓にはステンドグラスが張られ、ちょっとキリスト教の雰囲気のする小部屋です。


 会堂でまず、お坊さんとか、キリスト教の牧師さんに、講話や説教をしてもらいます。


 患者さんは、べッドに備えられたイヤホンで、全員ベッド上で聞けるようにしたのです。


 「今日はお坊さんの何々さんが来て、講話をしますから、興味のある方はイヤホンで聞いてください」


 みんなに院内アナウンスしておきます。


 ですから最初はお坊さん一人が、誰もいない会堂の中で、マイクを前にしてしゃべる訳ですね。もしかすると、病棟内の誰も聴いてないかもしれません。


 講話を話した後、イヤホンで聴いた患者さんが、ああこれは聴きたいなあと思ったら、直接その会堂に行って聴いてもいいというやり方にしたのです。


 患者さんが動けなければ、お坊さんにべッドサイドに来てもらって話してもらいます。そういう方法を考えついたのです。


 患者さん自身が、自発的に宗教に関心をもって参加したのですから、これなら別に宗教の伝道ではありません。


 牧師さんやお坊さんといった宗教家がいない時は、カウンセラーが、仏教書『歎異抄たんにしょう』を、会堂で毎日朗読しています。


 このようにして、スピリチュアルな痛みに対して、AK病院では宗教を活用したのです。


(完)


☆豆知識


がんの痛みを癒す 告知・ホスピス・緩和ケア 高宮有介 著 小学館 1996年6月1日発行





┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│ 『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────



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