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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
6章 私の医療あり方論
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<1-5> 『患者中心の医療-ホスピス』 横浜市民講座講演録 その5 ホスピスケアの三原則 その1

その5 ホスピスケアの三原則 その1


 ホスピスケアの三原則は、①本人の意思と尊厳を大切にする、②苦痛などの症状をコントロ-ルする、③QOL(生活の質)を大切にする、があげられます。


① 本人の意思と尊厳を大切にする-人権を守る


 80年代、終末期がん患者の置かれた状況を、「病院のゴミ箱に捨てられた」と形容していました。


 私は外科をやっていましたのでよく分かるのですが、治療の余地がある患者は、毎日回診し、よく診察します。しかし終末期となって、ほとんど治療の余地のなくなった患者は、なるべく避けるようになるのです。


 下手に病名を知られては困るし、しつこく追及されても困るので、少し顔を出すと早々に退室するのです。それがまさに、「ごみ箱に捨てられた」という状況だったのです。


 ホスピス運動は、そういった捨てられた終末期患者の人権運動だったのです。


 本人が意思を明確に表明できなければ、原則として、ホスピスの入院対象にはなりません。病名の告知を受け、ホスピスへの入院であることを了解していなければならないのです。


 また、治療のインフォームドコンセント(十分な説明を受け、同意すること)も、ホスピスでは大切にされています。


 胃がんの高齢男性患者が、食事が取れなく倦怠感が強くて寝込んでいました。


 私が、「点滴をすると楽になりますよ」といっても、「薬は嫌だ」と頑として拒否します。それを3日間かけて説得して、やっと1本点滴することになりました。


 点滴をしてみると体が楽になることを、その時初めて本人は知りました。それからは、点滴をして欲しいときは自分からいってくるようになったのです。


 人間の尊厳を守るという考えの中に、人工的なものより自然であることを大切にするという考えがあります。


 スパゲティー症候群という言葉があります。これは現代医療を象徴する言葉です。


 お皿に盛られたスパゲティーをフォークですくい上げると、何本ものスパゲティーがフォークから釣り下がりますね。


 現代医療では終末期になると、点滴の管、酸素の管、導尿の管、モニターのコードなどなど、患者は管だらけになってしまいます。その悲惨な光景をスパゲティー症候群と揶揄やゆしたのです。


 終末期においては、人工物による無理な延命はやめ、なるべく自然なかたちで看取ってあげるのが、ホスピスケアの精神なのです。


② 症状のコントロ-ル(*豆知識)


 症状コントロ-ルを的確にすることからホスピスケアは始まります。激しい苦痛を取り除いて上げることが先決なのです。


 20代の男性でした。肺がんによるがん性リンパ管症という、肺全体ががん細胞で埋め尽くされてしまう恐ろしい病状でした。窒息するほどの呼吸困難のためにベッドに横たわることもできず、オーバーテーブルにうつ伏せのように寄り掛かっていました。


 持続的な血管確保ができないために、大腿静脈からIVHのカテーテルを挿入することになりました。鎖骨下静脈にアプローチして、肺でも傷つけたりすれば即死状態になるからです。


 しかし大腿静脈から挿入するにしても、横になることができないので、座ったまま挿入する必要がありました。これは私の医療経験でも初めてのことだったのです。


 幸いすぐに挿入できましたが、苦しさのためにいっときもじっとしておれず、それは壮絶な闘いでした。それから数日してその方は亡くなりました。


 ホスピスというと、なにか穏やかな平安なところというイメージがあります。もちろんそういう場合がほとんどなのですが、このような壮絶な苦闘場面も時としてあるのです。


 症状コントロ-ルの中心は、ペインコントロ-ル(痛みのコントロール)です。ペインコントロールには、身体的、精神的、霊的なものがあります。


 身体的なペインというのは、がんの侵襲による身体的な痛みのことです。精神的なペインとは、死への恐怖、家族との離別の悲しみ、自分が死んだら家族はどうなるかといった心配などです。霊的ペインは宗教的な言葉で、死後はどうなるのかなどの不安や苦悩をいいます。


 その中で、身体的なペインコントロールについてまとめてみました。


 1)麻薬ではないインテバン、ボルタレンなどのNSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)をまず使います。


 2)1)で効かないときに、モルヒネより少し弱いソセゴンとかレペタンを使います。麻薬ではないので使いやすいという利点があります。


 3)2)でもダメなときに、モルヒネを使います。モルヒネは麻薬管理が厳しいので、処方の出し方、薬の管理など扱い方がやや煩雑という欠点があります。


 モルヒネには、便秘・吐き気・眠気の三大副作用があります。


 モルヒネを安易に使うと、このような副作用のために、患者がこの薬は絶対嫌だと先入観を持ってしまいます。1度そういう先入観を持たれると、なかなかそれを使うことができません。


 最初からその副作用を出さないように、モルヒネと同時に副作用を抑える薬を使うのです。そうするとモルヒネの良い面のみが現れ、患者は安らかになることができます。


 4)ホスピスケアの妙技:モルヒネとステロイドを使いこなす。(次話に続く)


*豆知識


【症状コントロ-ルの実際】


1)発熱 ①ボルタレン坐薬、25mg~50mg 挿入、②メチロン1A 筋注または点滴内添加


2)吐き気 ①ナウゼリン坐薬60mg挿入 ②プリンペラン1~2A+生食水100mlなど、点滴注射 ③ノバミン1~2A+生食水100ml点滴注射


3)疼痛 ①ボルタレン坐薬25mg挿入 ②ナイキサン1~2錠経口投与 ③塩酸モルヒネ経口または注射、またはMSコンチン経口投与 アンペック坐薬 塩酸モルヒネの持続皮下注(注入器を用いて24時間持続皮下注)④オキシコンチン(オキシコドン)10~80mg 分2 ⑤デュロテップパッチ、フェントステープ(フェンタニル)2.5~5mg

⑥神経ブロック療法


4)倦怠感 リンデロン2mg/日


5)不眠 ①リスミー1~2錠経口投与、②ユーロジン1~2錠経口投与、③ハルシオン0.25mg1~2錠経口投与


6)便秘 ①プルゼニド2錠経口投与、②アローゼン1P経口投与、③ラキソセリン20滴経口投与、④カマ0.5g経口投与、⑤グリセリン浣腸60~120ml


7)下痢 ロペミン2錠 分2経口投与


8)不穏 ①セルシン5~10mg経口投与または筋注 ②ダイヤアップ坐薬6mg挿入 ③生食水100ml+セレネース1A点滴静注 または、生食水100ml+コントミン25mg点滴静注 または生食水100ml+ドルミカム1/2A~2A点滴静注 または、ドルミカム1/2から1A筋注または、セレネース0.75mg3~6錠分3経口投与 リスパダール(1mg)2T分2経口投与


9)吃逆しゃっくり リボトリール1~2錠経口投与


10)眠気 リタリン1錠経口投与


11)うつ アナフラニール1A~2A+5%ブドウ糖500ml点滴静注


12)食事摂取不良 フィジオ35 500ml 1~2本 点滴静注


13)痙攣 ①フェノバール1A筋注、②セルシン5mgゆっくり静注


14)呼吸困難 ①酸素2~4リットル投与、②塩酸モルヒネの持続皮下注など、または生食水100ml+ドルミカム1A点滴静注


15)喘鳴 ハイスコ1/2A舌下、または1A点滴内添加



〈つづく〉



┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│ 『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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