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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
5章 病気もいろいろ患者もいろいろー名診誤診迷診
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<41> 名診誤診迷診-べッドサイドで包茎手術

<41> 名診誤診迷診-べッドサイドで包茎手術


 このサイト『カルテに書けない』では、「包茎」についてたくさん書いてきました。(←(^ω^)最下段を参照してね)


 私は青年医の頃は、包茎専門医を自称して、包茎の手術をしまくっていました。


 その甲斐あってか(笑)、この病院でときどき出くわす包茎の処置は、概ねうまくできています。


 驚くことに、高齢者の病院でも、包茎事例は時々出くわすものです。患者さんも、長き生涯を包茎と共に過ごしてきたのです。


 82歳の男性で、中等度の認知症のある患者さん(Aさん)がいました。


 ある時、スタッフがとんで来て私に言いました。


「Aさんの尿が出ません」


 よくよく聞いてみると、尿道口から尿が出ないということでした。


 腎不全のように尿が腎臓で作られない場合は別ですが、普通、作られた尿は、腎臓から尿管を通って膀胱へ、膀胱から尿道を通って体外へと排出されます。


 尿が出ないというのは、このどこかで通過障害が起きているのです。


 スタッフの言うには、外尿道口つまりペニスの真ん中にある穴が、最近だんだん狭くなってきたようです。


 そこに腫瘍などがあれば話しは別ですが、普通そういうことはありません。


 診てみると、尿道口ではなくて、真性包茎の包皮の穴がだんだんと縮小してきて、ついには詰まってしまったのです。


 おそらく若い頃から真性包茎だったのです。真性包茎とは亀頭部の包皮が翻転(ひっくり返すこと)できない包茎をいいます。(⇒豆知識)


 そもそも論でいうと、包茎には真性包茎と仮性包茎があります。(←(^ω^)包茎専門医は得意気に解説しています)(図1)

挿絵(By みてみん) 

    図1


 真性包茎とは、包皮の翻転が全くできない包茎で、包皮の穴よりもペニス亀頭部の全径が、すこぶる太い場合がこれにあたります。あまりにも太いので(というより、包皮の穴が小さいので)翻転できないのです。


 仮性包茎とは、亀頭部と包皮の穴の差がさほどでないために、最悪でも力ずくにやれば翻転できるものです。(←(^ω^)男ならすぐ分かるよね)


 Aさんの場合、恐らく穴周辺に炎症などを起こすたびに、段々とその穴が縮んできて、 閉塞してしまったと思われます。


 余談ですが、この患者さんは元官僚の方でした。東大出身で通産官僚をやっていた人で、幹部まで上り詰めた人のようです。


 この病院の入院患者さんには、さまざまな人がおられます。


 官僚の幹部だった人。原子力委員会の委員だった人。日本地図を最初に作った人の子孫。日本のロケットの父と言われた人の兄弟、などなど。


 お医者さん、看護師さんも時々おられます。


 そうそうたる人たちが、入院して来られます。もちろん認知症で。


 認知症というのは、全ての人に平等に起きるものですね。


 話しを戻します。(←(^ω^)長い余談だこと)


 この患者さんは、官僚時代は仕事に厳しく、家族にも怒ってばかりいる人でした。


 娘さんは、当時の家庭生活で、優しい父親を見たことがないと言っておられました。


 ところが認知症になって、厳しい環境から解放され、「穏やかでニコニコしている父親に初めて会えて、嬉しく思います」と言っておられました。


 Aさんは日中よく眠っています。 トイレ通いが頻回です。しかも夜中も、なので熟睡できないのです。


 トイレ通いの原因がやっと分かりました。


 尿の出口が狭いので、尿がしっかり出切れなくて、頻尿となっていたのです。


 包茎専門医の私はここぞとばかり、少しの道具しかないこの病院で、穴を切開することにしました。


 スタッフたちは、おっかなびっくり脇で見ています。


「こんな何もないところで、そんなことできるんですか……」


 包茎はその解剖を知っていれば、大したものではありません。


 詰まってしまった包皮の穴にゾンデを突っ込んで、包皮の内側に入ります。


 そして、亀頭部の根本の方にゾンデを進め、包皮を突き破ります。(図2)


挿絵(By みてみん) 

    図2


 もちろんその時には局所麻酔をしています。


 突っ込んだ穴と突き出した穴をむすぶ線(図3 赤い点線)をメスで切開すれば、閉塞した穴は開放されます。


挿絵(By みてみん) 

    図3


「ああ、そんなとこ切っちゃって大丈夫なの」


 脇で見やるスタッフがつぶやきます。


 それを尻目に2cmほど切り開きました。かくれんぼしていた坊やの頭が出てきて、"こんにちは"。


 創縁を縫い付けて包茎の手術は完了します。今回は縫い付けるだけの手間と時間がなかったので、そのまま止血だけして創は開放しておきました。


 そして、おしっこが出やすいように、カテーテルを尿道に留置しておいたのです。


 結果、そのカテーテルが創縁の再癒合を防いでくれて、縫い付ける必要がなくなりました。


 本人もそれで尿がすっきり出るので、すごく快調です。カテーテルが入っているのも気にしません。ニコニコしてテーブル仲間と談笑しています。


 その後もうまく、それは機能しているのです。


 めでたし、めでたし。


☆豆知識


 包茎(ほうけい、英:phimosis)とは陰茎の亀頭が包皮に覆われて露出不可能ないし露出に問題が伴う状態をいいます。


 陰茎は亀頭部と陰茎体部からなり、包茎でない限り、包皮を陰茎の根元側へ寄せると包皮がめくれて亀頭が露出します。


 国際的には、包皮の翻転ができない場合を包茎といいますが、日本ではこれを真性包茎といい、亀頭が包皮に覆われているだけの場合「仮性包茎」と呼んでいます。(出典:Wikipedia)


追記)興味のある方は、下の話しも読んでくださいね。


 5章 病気もいろいろ患者もいろいろ

  <1> ねじれた頭

  <1-2> 頭をひねって腰麻で手術

  <4> むくんだ頭

  <37> むくんだ頭 今度は治せた


〈つづく〉


┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│ 『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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