<33> 名診誤診迷診-ホスピスの日々-患者と寝たナース
「患者と寝た」などと書くと、良からぬことを連想してしまいますよね。もしほんとにそうなら、長年医者やってても聞いたことがない珍事となりますよ。
寝たというより、同じ部屋に泊まったといった方がいいでしょう。
「な~んだ」
なんていわないで、読んでくださいね。
それはホスピス病棟でのことです。
あまりに患者の様子がおかしいので、ナースがとった戦法でした。
患者は60代の男性Aさん。肺がんの末期患者さんでした。
昼は、閉眼していて、何をいっても返答がありません。何もしません。眠ってばかりいるのです。少なくともはたには、そう見えたのです。
傾眠がちの割には、やせ細るわけでもなく、
「おかしいなあ」
スタッフは頭を抱えました。
みんなでカンファレンスをしました。
「詐病じゃない?」
「きっと分かってる、みんな話を聞いてるよ」
「誰もいない時は起きてるんじゃないの」
そこで、彼の1日の行動を、しっかり観察してみようという結論になりました。
昼はスタッフがたくさんいます。人の出入りも頻繁です。すると、Aさんは寝てばかりいます。
問題は夜です。夜にはきっと一人で何かやっていそうです。
しかし、夜にはスタッフが少なくなり、一人だけをずーっと看ているわけにはいきません。
「はて、どうしたものか……」
みんな、考えこみました。
一人の女性ナースが申し出ました。
「私が夜だけ出勤して、彼の部屋に泊まります」
「ええ~」
患者の部屋は個室で、ベッドの足元にソファーが置いてあります。彼女はそのソファーに寝て、夜をともに過すというのです。
いくら仕事とはいえ、60代の男性の個室に、女性一人が泊まるというのは、前代未聞のことです。
起きているところを誰も見たことがないので、体力がどれぐらい残っているかさえ、分からないのです。
「もし体力が残っていたら……」
心配が同僚の脳裏をよぎります。それをよそに、
「明晩、泊まります」
彼女は信仰深いクリスチャンでした。(←(-。-;)私は、なんちゃってクリスチャン)
このホスピス病棟も、彼女の発案だったのです。
何ごとにも憶しない性格で、物事に真正面から取り組む人でした。(美形ではありませんでしたが。←(^ω^)コラ~!セクハラだぞ。(-。-;))
夜になりました。消灯時間になりました。
彼女は足元にあるソファーに、そおーっと横になったのです。
ベッドから離れて足元にソファーはあります。患者は起き上がって周りを見回さない限り、そのソファーに人がいるとは思いません。
病棟じゅうが寝静まったころ、案の定、患者は一人起き上がりました。ベッドから降りると、その脇でウロウロしだしました。
置いてあった食事を食べ出したのです。
「Aさ~ん、何してるの?」
おもむろに彼女が声をかけます。
まさか人がソファーにいるとは夢にも思わず、患者は飛び上がって驚きました。急いでベッドの中にもぐりこんだのです。
「もう分かっちゃったわよ。下手な芝居をしてないで、起きなさいよ~」
夜勤のナースも駆けつけ、あっさり掛け布団をはがされました。
彼は、意識的にこのような演技をしていたことが、こうして判明したのです。
ウソがバレてからというもの、寝ていると、みんなにお尻を叩かれて、寝ているどころではありません。
ホールに連れ出され、みんなと触れ合いタイムを過ごすことになりました。
間もなくして彼は、向精神薬の効果もあって、一時帰宅することが出来たのです。(←(^ω^)おめでとう)
それにしてもこのナースは勇気がありますよ。
いくらがんといっても、60代の男性なら、まだ身体的パワーは十分あり得ます。
その個室で女性一人が一緒に寝るというのは、勇気と情熱がないとできないことですね。
頭が下がります。
彼女は今は、カウンセリングの講師となって、日本のみならず世界中を飛び回って講演をしています。
このナースとの思い出を追記しておきます。(当ウェブの拙著『いのちの砦』から抜粋しました←(^ω^)これ宣伝)
*『いのちの砦』 Ⅱ章 朝もやの船出 2話 東海大学安楽死事件
看護婦の赤城幸代は、熱心なクリスチャンだった。一般病棟に勤務し、高井の回診にたびたび付き添った。
ある日、赤城は用事で院長室を訪ねた。高井は不在だったが、それを知らずにドアを開けた赤城の目に、机上に置かれたホスピスの本が飛び込んできた。赤城も前々からホスピスに深い関心を持っていたのだ。
それからというもの赤城は回診に付き添うたびに、
「ホスピスっていいですね」
高井を見つめてはつぶやくようになった。高井には不可解な言動に見えたが、頭の片隅にそれを記憶しておいた。
(略)
91年7月、その時がやってきた。
いつものように高井は病棟回診をしていた。赤城看護婦が付き添っていた。患者を診察し終えて病室を出たとき、赤城と目が合った。その一瞬、2人の視線に閃光が走った。
「ホスピスをやろうか」
とっさに高井は声をかけた。
赤城は積年の想いをはらすかのように、
「院長先生、やりましょう!」
満面の笑みを浮かべて力強く答えた。2人はくしくも思いが通じたその喜びに、声がはずんだ。
((^ω^)⇒後は本文を読んで下さいね)
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│ 《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│ 《 人生の意味について考えます 》
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