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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
5章 病気もいろいろ患者もいろいろー名診誤診迷診
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<33> 名診誤診迷診-ホスピスの日々-患者と寝たナース

 「患者と寝た」などと書くと、良からぬことを連想してしまいますよね。もしほんとにそうなら、長年医者やってても聞いたことがない珍事となりますよ。


 寝たというより、同じ部屋に泊まったといった方がいいでしょう。


「な~んだ」


 なんていわないで、読んでくださいね。


 それはホスピス病棟でのことです。


 あまりに患者の様子がおかしいので、ナースがとった戦法でした。


 患者は60代の男性Aさん。肺がんの末期患者さんでした。


 昼は、閉眼していて、何をいっても返答がありません。何もしません。眠ってばかりいるのです。少なくともはたには、そう見えたのです。


 傾眠がちの割には、やせ細るわけでもなく、


「おかしいなあ」


 スタッフは頭を抱えました。


 みんなでカンファレンスをしました。


「詐病じゃない?」


「きっと分かってる、みんな話を聞いてるよ」


「誰もいない時は起きてるんじゃないの」


 そこで、彼の1日の行動を、しっかり観察してみようという結論になりました。


 昼はスタッフがたくさんいます。人の出入りも頻繁です。すると、Aさんは寝てばかりいます。


 問題は夜です。夜にはきっと一人で何かやっていそうです。


 しかし、夜にはスタッフが少なくなり、一人だけをずーっと看ているわけにはいきません。


「はて、どうしたものか……」


 みんな、考えこみました。


 一人の女性ナースが申し出ました。


「私が夜だけ出勤して、彼の部屋に泊まります」


「ええ~」


 患者の部屋は個室で、ベッドの足元にソファーが置いてあります。彼女はそのソファーに寝て、夜をともに過すというのです。


 いくら仕事とはいえ、60代の男性の個室に、女性一人が泊まるというのは、前代未聞のことです。


 起きているところを誰も見たことがないので、体力がどれぐらい残っているかさえ、分からないのです。


「もし体力が残っていたら……」


 心配が同僚の脳裏をよぎります。それをよそに、


「明晩、泊まります」


 彼女は信仰深いクリスチャンでした。(←(-。-;)私は、なんちゃってクリスチャン)


 このホスピス病棟も、彼女の発案だったのです。


 何ごとにも憶しない性格で、物事に真正面から取り組む人でした。(美形ではありませんでしたが。←(^ω^)コラ~!セクハラだぞ。(-。-;))


 夜になりました。消灯時間になりました。


 彼女は足元にあるソファーに、そおーっと横になったのです。


 ベッドから離れて足元にソファーはあります。患者は起き上がって周りを見回さない限り、そのソファーに人がいるとは思いません。


 病棟じゅうが寝静まったころ、案の定、患者は一人起き上がりました。ベッドから降りると、その脇でウロウロしだしました。


 置いてあった食事を食べ出したのです。


「Aさ~ん、何してるの?」


 おもむろに彼女が声をかけます。


 まさか人がソファーにいるとは夢にも思わず、患者は飛び上がって驚きました。急いでベッドの中にもぐりこんだのです。


「もう分かっちゃったわよ。下手な芝居をしてないで、起きなさいよ~」


 夜勤のナースも駆けつけ、あっさり掛け布団をはがされました。


 彼は、意識的にこのような演技をしていたことが、こうして判明したのです。


 ウソがバレてからというもの、寝ていると、みんなにお尻を叩かれて、寝ているどころではありません。


 ホールに連れ出され、みんなと触れ合いタイムを過ごすことになりました。


 間もなくして彼は、向精神薬の効果もあって、一時帰宅することが出来たのです。(←(^ω^)おめでとう)


 それにしてもこのナースは勇気がありますよ。


 いくらがんといっても、60代の男性なら、まだ身体的パワーは十分あり得ます。


 その個室で女性一人が一緒に寝るというのは、勇気と情熱がないとできないことですね。


 頭が下がります。


 彼女は今は、カウンセリングの講師となって、日本のみならず世界中を飛び回って講演をしています。


 このナースとの思い出を追記しておきます。(当ウェブの拙著『いのちの砦』から抜粋しました←(^ω^)これ宣伝)


*『いのちの砦』 Ⅱ章 朝もやの船出 2話 東海大学安楽死事件


 看護婦の赤城幸代は、熱心なクリスチャンだった。一般病棟に勤務し、高井の回診にたびたび付き添った。


 ある日、赤城は用事で院長室を訪ねた。高井は不在だったが、それを知らずにドアを開けた赤城の目に、机上に置かれたホスピスの本が飛び込んできた。赤城も前々からホスピスに深い関心を持っていたのだ。


 それからというもの赤城は回診に付き添うたびに、


「ホスピスっていいですね」


 高井を見つめてはつぶやくようになった。高井には不可解な言動に見えたが、頭の片隅にそれを記憶しておいた。


(略)


 91年7月、その時がやってきた。


 いつものように高井は病棟回診をしていた。赤城看護婦が付き添っていた。患者を診察し終えて病室を出たとき、赤城と目が合った。その一瞬、2人の視線に閃光が走った。


「ホスピスをやろうか」


 とっさに高井は声をかけた。


 赤城は積年の想いをはらすかのように、


「院長先生、やりましょう!」


 満面の笑みを浮かべて力強く答えた。2人はくしくも思いが通じたその喜びに、声がはずんだ。


((^ω^)⇒後は本文を読んで下さいね)


〈つづく〉


┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

└───────────────






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