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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
5章 病気もいろいろ患者もいろいろー名診誤診迷診
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<31> 名診誤診迷診-なんでそうなるの?

 1974年頃の人気お笑い番組に、「コント55号のなんでそうなるの?」というテレビ番組がありましたよね。(←(^ω^)古すぎてそんなの知らん?)


 毎日、診療をしていますと、まさにこの「なんでそうなるの?」という事例に時として出くわします。


 それは70代のお婆さんでした。


 初回の入院は、「どうも様子がおかしい」と家族が心配して連れてきました。


 何かわけのわからないことをいう、どこかへ出かけたまま帰ってこないなど、認知症のような症状なのです。


 認知症は2004年に定義された病名ですから、その当時は痴呆ちほうといっていました。(⇒豆知識)


 うちの病院には精神科は無いので、内科が受け持ちました。


 なるほどちんぷんかんぷんです。


「お年寄りのボケかな……」


 そう思いつつ、とにかく入院して精査しようということになりました。


 血液や頭部CTなど色々検査しても、特に異常はありません。


 そうこうしているうちに、勝手に病院をぬけだして家に帰ってしまいました。


 驚いたのは家族です。何の説明も受けないうちに帰ってきてしまったのですから、当然です。


 家に帰ったのでまだよかったのですが、これがもし行方知れず、はたまた行き倒れなどとなったら、それこそ病院の管理責任が厳しく問われます。


 一度私も経験しています。私の受け持ち患者が夜中突然いなくなってしまったのです。近所をスタッフで探し回りましたが、ついに見つけることができませんでした。警察に届け出ました。


 翌朝、近くの幼稚園から連絡が入りました。幼稚園の玄関先で寝ている人がいて起こして聞いてみると、うちの病院の事を話したそうです。それで通報してくれたのです。


 話を戻します。


 遅ればせながら家族を呼んで病状を説明しました。


「内科的検査には特別なものはありませんので、家で様子を見てください」


 ひとまず退院としました。


 それから数カ月したころ、高熱を出してまた家族と病院にやってきました。


 退院後もおかしな挙動は、相変わらずのようでした。


 胸部レントゲン写真を撮るとしっかりした肺炎です。


 治療のために入院させましたが、 幸か不幸か高熱のために元気がなく、おとなしく治療を受けていました。(←(^ω^)こういう時だけは元気無いのがありがたいもんよ)


 抗生物質にソルコーテフ1日100mgぐらいの少量のステロイドを併用しました。


 感染症に対するステロイド剤使用は、賛否両論ありますが、私は上手に使えば妙薬だと思っています。


 ステロイドが奏効したのかすぐに熱は下がり、本人は元気を取り戻しました。お陰で、点滴を引き抜いてしまう始末です。


 肺炎は10日程で治りました。


 家族を呼んで、


「肺炎は治りました。そろそろ家に帰ることもできますよ」


 喜ぶかと思いきや家族は渋い表情で、


「もう少し置いて下さい……」


 高齢であり認知症もあるので、家族はすぐに退院は希望しなかったのです。


 病院で引き続き様子を見ることにしました。


 ところが特段何もしていないのに、それから徐々に、本人の生活態度が変わってきたのです。普通の人に戻ってきたのです。


「この人、どうしたの……」


 ナースも首をかしげています。


 1カ月ほどしたころです。


 回診して回ると、患者さんは凛としてベッドの上に正座しています。


 三つ指をついて丁寧にお辞儀をすると、


「お世話になります」


(ええ!この人があのお婆さん?!)


「具合はどうですか?」


「おかげ様で、良くなりました」


 まったく普通にきちんと応対するのです。


 何か特別な薬でも使ったのかと、家族も驚いていました。


 何も使っていません。ただ看ていただけなのです。


「なんでそうなるの?」(←(^ω^)普通どんなに頑張っても、認知症は良くならないのにねえ)


 結局なぜよくなったのか分かりませんでした。


 『<29> ご主人はいつもこんな様子なの』 で書きましたように、これまた脳炎でも起こしていたのかと、推測するしかありませんでした。(←(^ω^)まあ良くなったのだから、よしとしてくださいませ)


*豆知識


 認知症(にんちしょう。英: Dementia)は認知障害の一種であり、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態です。


 医学的には「知能」の他に、「記憶」「見当識」を含む認知障害や「人格変化」などを伴った症候群として定義されています。


 これに比し、先天的に脳の器質的障害があり、運動の障害や知能発達面での障害などが現れる状態は知的障害、先天的に認知の障害がある場合は認知障害といいます。


 日本ではかつては痴呆ちほうと呼ばれていた概念ですが、2004年に厚生労働省の用語検討会によって「認知症」への言い換えを求める報告がまとめられ、まず行政分野および高齢者介護分野において「痴呆」の語が廃止され「認知症」に置き換えられました。各医学会においても2007年頃までにほぼ言い換えがなされています。


 認知症は70歳以上人口において2番目に多数を占める障害疾患です。全世界で3,560万人が認知症を抱えて生活を送っており、その経済的コストは全世界で毎年0.5-0.6兆米ドル以上とされ、これはスイスのGDPを上回ります。


 患者は毎年770万人ずつ増加しており、世界の認知症患者は2030年には2012年時点の2倍、2050年には3倍以上になるとWHOは推測しています。


 現在の医学において、認知症を治療する方法はまだ見つかっていません。


* 参照:Wikipedia


〈つづく〉


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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

└───────────────




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