表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
5章 病気もいろいろ患者もいろいろー名診誤診迷診
118/329

<4> むくんだ頭

 これまた下の話し。さらに頭は頭でも、<1> と同じペニスの頭。


 この手の話は思い出すとキリがありません。次から次と思い出してしまうのです。(←(^ω^)とにかく脳髄に焼き付いていますから、簡単には忘れられないのです)


 精神科病棟での出来事です。


 私は大学卒業後、精神科の大学院に入りました。精神科の入院患者さんには、神のお告げを受けた方々がたくさんおられました。


 そもそも似たりよったりの私なんぞは、へたすると、その世界にひきずりこまれて、「と-んでもない、わしゃ神様じゃ」なんてなってしまいそうな毎日でした。(←(^ω^)これ、ご存じ、志村けんさんのギャグ)


 大学院で2年ばかり精神科をやりましたが、ひょんなきっかけで外科へとまさに180度転向したのです。あまりの急な転向に、「お前はどういう性格なんだ」と、先輩に笑われたものです。


 外科に移ったばかりの駆け出しで、日赤総合病院で当直をしていたときのことです。


「先生来てください」


 精神科病棟からの呼出です。病院には精神科病棟があったのです。


(精神科かあ、懐かしいなあ)


 鼻歌まじりに当直室を出て、閉鎖病棟の重い鉄製ドアのカギを開けて、中に入って行きました。


 精神科病棟は、独特の雰囲気があります。やたらと絵とか習字の作品が掲示板に貼ってあり、まるで幼稚園のようににぎやかな割には、医療器具がほとんどないのです。


「精神科病棟はどこも同じだなあ」と、キョロキョロ見回しながらナースセンターに行くと、ナースがとんできて患者のところに連れて行ってくれました。


 何やら独特のオーラを放つ、20代の精神分裂病(今では統合失調症といいます)の青年が、自分のペニスを持って立っているのです。


 精神科病棟でペニスを出した男という異様な光景に、一瞬、足がすくみました。


「な、なに!これ?」


 物が物だけにビビりました。


 われに返り、よくよく眺めてみると、ペニスの先端が水ぶくれになっているのです。ペニス亀頭部の首根っこが、まるで浮輪をつけたようにむくんでいるのです。こんなの見るのは初めてです。(←(^ω^)なにせ、包茎専門医となる前のことですから。<1> ねじれた頭を参照してね)


「これどうしたのよ?」


 もともと口がきけないのか、ペニスが心配で話せないのか、聞いても患者は黙ったまま。ただただペニスをいじるのみです。


 ナースが苦笑いして、


「ぺニスで遊んじゃったんです……」


 よくあることのような口ぶりです。


 どうもマスターベーションしているときに、われを忘れて思いっきり包茎の皮を翻転(ほんてん=ひんむくこと)させてしまったようです。これを医学では嵌頓包茎というのです(←(^ω^)あとで知ったことですが。そのとき知ってりゃ、こんなに驚きはしなかったのにね……)。


(こんなのどうすんだよ!?)


 突然「治してよ」と言われても、どうしていいのか分かるはずがありません。困り果てて、しばらくペニスとにらめっこ。


「知~らない」と言いたいところでしたがそうもいかず、仕方なくそのペニスを手に取って皮を戻そうとすると、突然患者は大声で、


「痛ってえ!痛ってえ!」


「なんだ、話せるんか」


「痛ってえ!痛ってえ!」


「がまんしろよ!自分でやったんだろう」


 そのことばが通用する相手かどうかは疑問でしたが、こちらも興奮していますから、大声が病室を飛び交います。


 汗だくの苦労もむなしく、水ぶくれの皮など、とうてい戻る気配はありません。疲れて患者の前にどかっとへたり込みました。


 しばらくはペニスを眺めて、2人ともその場に鎮座ちんざ。片やペニスを持った患者、片やそれをジーッと眺める医者。何とも言われぬ妙な光景です。


 気を取り直して再び挑戦したはいいが、やってもやっても患者は「痛い、痛い」と言うし、さりとて嵌頓した包皮はさっぱり元に戻らず。30分くらい奮闘して、ついにギブアップしました。


「これで大丈夫?」


 心配気に患者はしきりに聞いてきます。


 分裂病の患者を怒らしたら恐いので、自信はないけど自信ありげに、


「大丈夫だよ、明日また外科に診てもらおう」(←(^ω^)自分も外科のくせしてね)


 むくんだ頭に軟膏を塗ってガーゼでおおい、鎮痛剤を処方して、治療終了としました。


 何せ初めての経験なので、ペニスが腐ったりでもしたらどうしようと、その夜は気が気ではありませんでした。


 夜が明けると、急いで先輩に相談に行きました。


「な~に、その処置で十分さ。自然に治っていくよ」


 いとも簡単なあっけ無い返事でした。むくみは細菌感染などしなければ、自然に引いていくのです。知ってしまえば何のことはありません。あんなに緊張して、損しちゃいました。


 まんいちペニスが使い物にでもならなくなったら、恨まれて刃物で刺されたやもしれません。冷汗ものでした。


 笑いごとではありませんよ。精神科病棟では時に、患者が刃物で医者に切りつけたりする事件が起きているのです。


 無事で良かった。ペニスのせいで刺されでもしたら、これこそ前代未聞の珍事となるところでした。トホホ。


 下の話はこのへんで終わりとします。まだまだありますが、あまり続くと、それこそ「変なおじさん」になってしまいそうなので、またの機会といたします。(←(^ω^)もうすでに少し変ですかね……)



*本サイト掲載の〈いのうげんてん〉著作「『神との対話』との対話 http://ncode.syosetu.com/n6322bf/」 に、「セックス」について書いています。興味のおありの方はご覧ください。(←(^ω^)これ宣伝)



┌───────────────

│いのうげんてん作品      

│               

│①カルテに書けない よもやま話

│ 

│②著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》

│ 

│③ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

└───────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ