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第19話 彼女と一緒に過ごす昼休み時間

「岸本さんは、日曜日はどうだったのかな?」

「妹の友達の引っ越しを手伝うことになって。朝から昼過ぎまでずっと作業をしてたよ」

「へえー、それは大変だったね」

「でも、色々ご馳走になって、結果的には良かったんだけどね」


 休み明けの月曜日。

 岸本和樹(きしもと/かずき)は彼女と共に屋上にいた。

 そこのベンチに座り、玲奈の手作り弁当を食べていたのだ。

 今、屋上には二人の事を知っている人はおらず、一緒に食事をとっていても問題ない状況であった。


 稲葉玲奈(いなば/れな)は朝早くから起きて弁当を作ってきたらしい。

 見た目からして拘りが深く、弁当の中には丁寧におかずが引き詰められてあったのだ。


 内容としては、ウインナーと卵焼き。それとチキンナゲットやレタスだった。


「私、頑張ったの。だから、食べてほしいって思って」


 玲奈は箸で卵焼きを掴んで、それを和樹の口元まで近づけてくるのだ。


「んッ……」


 和樹は口の中で咀嚼する。

 少々味付けの仕方が間違っているのか、卵焼きから塩の味を強く感じていた。


 和樹は首を傾げ、なんて返答をすべきか悩みがちな顔つきになっていたのだ。


「どう? 美味しい?」

「う、うん。でも、ご飯と一緒に食べたら丁度いい味になるかも。この卵焼き」


 和樹はストレートな言い方ではなく、遠回しな言葉遣いで玲奈の様子を伺いながら感想を告げた。


「ご飯ならあるよ。おにぎりだけど、食べる?」

「それも食べてもいいの?」

「いいよ。私、岸本さんのために、余分に作って来たんだよね。ほら、五つも用意してきたんだからね」


 玲奈は布袋の中にあるおにぎりを見せてきた。


「なら、食べるよ」


 和樹はその五つの中から一つのおにぎりを選んで手に取る。

 包み込んでいるラップを剥し、山になっている先端の部分から食べ始めた。


 口内に残っている卵焼きの味と、今食べているおにぎりの米具合が丁度ベストマッチ状態になり、しょっぱさも逆に美味しさの一つとなって引き立っていた。


「いい感じ。美味しいね、これ」

「それはマヨネーズとツナを混ぜたおにぎりなの。結構味がついていて美味しいでしょ」

「そうだね」


 和樹はすぐに、そのおにぎりを食べ終える。


「そんなにすぐに食べなくても、まだあるからね」


 隣にいる玲奈は、和樹の方を見て、はにかんでいた。

 朝から頑張って来た力作を褒められ、彼女は嬉しそうだ。


「はい、こっちは鮭おにぎりなの」


 彼女から新しいおにぎりを受け取ったのである。


「こっちの方も美味しいね。稲葉さんは料理するのが好きな方なの?」

「一応ね。好きなことは好きなんだけど……得意ではないんだよね」


 玲奈は少し肩を落としていた。


「でも、十分上手だし、自信を持ってもいいと思うよ」


 和樹は彼女の事を気にかけるように言う。


「うん、ありがと」


 彼女は一呼吸おいていた。


 和樹が鮭おにぎりを頬張っていると――


「そう言えばなんだけど、今日の中原さん見た?」


 玲奈も弁当のおかずを箸で食べながら話題を振ってくる。


「梨花のこと?」

「そうだよ」

「見てないけど」


 梨花とはこの前の土曜日。カフェ店内で少し問題事に発展してしまい、それから関わっていなかった。

 彼女が、あのカフェを出禁になった事くらいしかわからず、クラスも違う事から、その後の事は知らないのだ。


「中原さんって、先生から怒られていたし、何か大変そうだったよ。何をしたのかはわからないけど」

「そ、そうなんだ、そんなことが……でも、もういいよ。あの人の事については……」


 和樹はもう思い出したくなかった。

 忘れたいといった感情の方が強かったのである。


 和樹は鮭おにぎりを食べ終えると、少し頭を抱え悩み始めていたのだ。


「岸本さん? どうしたの?」


 少々俯きがちになっている和樹の事が気になったようで、玲奈が様子を伺ってきた。


「いや、なんでも……それより、梨花の事については多分、もう大丈夫だと思う」


 和樹の声は小さくなっていた。


「……え?」

「なんていうか。梨花の方からは何も言ってこないと思うし、もうこれ以上の仕返しはいらないと思う」

「岸本さんは、それでいいの? 嫌なことをされてたんでしょ?」

「そうなんだけど……」


 土曜日の出来事がまたフラッシュバックし、悲し気な顔で店内から追い出される梨花の姿が脳裏をよぎっていた。


「もう……大丈夫だと思うし。梨花の件について何かあったら、稲葉さんにもう一度相談するから」

「うん、わかった。岸本さんがそれでいいのなら、私はもう気にしないよ」


 彼女も察してくれたのか、素直に首を縦に動かして同意していたのだ。


「まあ、これ以上、暗い話もよくないし。気分を切り替えないとね」


 玲奈は、白けた場の雰囲気を改善しようとしていた。


「岸本さんは、おにぎりを食べる? まだあるよ。あと一個なら食べてもいいし」


 玲奈からおにぎりを渡される。

 その中身は梅干しだった。

 口の中がすっぱくなったが、嫌な気分を紛らわすには丁度良かったのだ。




「そうだ、岸本さん!」


 昼食の時間。

 ご飯を食べ終えると、玲奈は弁当箱を閉じる。

 すると、彼女の方から話題を振ってくるのだ。


「あの子の事を気にしなくてもいいなら、今日一緒に遊ばない? この前岸本さんが読んでた、あの漫画の続きも見たいし」

「あの作品ね」

「そうそう。あの作品の物語面白くて、電子書籍版で先の方まで読んじゃったの。でも、新しい方はまだ掲載されていなくて」

「だったら、俺の家に来なよ。最新話が載ってる雑誌もあるし。それで見れば最新話まで見れるから」

「あの作品って雑誌で連載されてるんだね」

「そうなんだよ。でも、そろそろ完結しそうなんだよね。多分、今年中には終わるんじゃないかな?」

「そうなんだ。確かに、電子書籍で読める最新話で色々な出来事が起きてて。最終話に近いのかなって思ってたんだけど。やっぱり、最終話が近いんだね」

「けどさ、原作の投稿サイトでは普通に連載されているんだよ」

「へえぇ」

「漫画版は、物語全体の一部分を簡略したモノを連載してるだけなんだ。原作を見ると、結構、設定が違っていたりもするよ」


 玲奈はそうなんだという考え込む表情を浮かべ、和樹の説明に耳を傾けていた。


「そうなると、原作の方も見たいな」

「それなら、このサイトに登録して、ログインすればいつでも見られるよ。スマホある?」


 和樹の問いかけに、彼女はスマホを取り出す。

 和樹は、玲奈のスマホ画面に表示されているモノを指さし、手順通り説明してあげたのだった。


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