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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
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第3幕ー16 罪の証

 別室に移動した私達は椅子に座る事もせず立っていた。自室で蟄居中だったミリアムは部屋着のまま身なりを整える暇も与えられず、急に連れて来られて困惑し側妃の傍で居心地悪そうにしている。


 この場で椅子に座っているのは王だけ。

 どうして主役がここに来てしまうかな……傍にはメイドに変装した王妃までいるし。


 側妃はまず、そのメイドに扮した王妃を見咎めて「愛人を連れてくるなんて馬鹿にしているのか」と王を詰り、ブリオネス公爵が宥めた。


「姉上、今はその話よりもクラウディオ殿下の事です。メイドの事は後にしましょう」

「ああ、そうね。そうだったわね。 わたくしはクラウディオの王太子位返上は認めませんからね」


 少し冷静を取り戻した彼女は閉じた扇を力いっぱい両手で握りしめた。


「僕が何も知らないとでも思っているのですか。聞いたんですよ……僕とミリアムは陛下の子では無いってね」

「何の事? 誰かに吹聴されたのかしら?」

「お母様の言う通りよ! おかしな事を言わないでお兄様!」


 無表情になった側妃が切り返し、便乗したミリアムはクラウディオに食って掛かる。それをクラウディオは哀れな者を見るような目で2人を見ていた。


「貴方自身が言っていたのですよ。忘れましたか? ブリオネスのおじい様の葬儀の後、叔父上と貴方が2人きりで話していたんです。僕とミリアムの本当の父親は……」

「やめて! 聞きたくないわそんな事! 今はクラウディオ、貴方の進退についてよ!! 出自の話をしているのではなくてよ!!」

「亡くなったブリオネスのおじい様が本当の父親だと! 声を封じ抗議できない陛下を散々馬鹿にしていたではないですか!」

「……ち、違う……違うのよ……」


 声を荒げてクラウディオの言葉を邪魔しようとしたが、彼は止まらなかった。母親の両肩を掴み、揺さぶりながら言い切ると後ろへ押して手を離した。

 力の抵抗に抗えなかった側妃が床に尻もちをついて、クラウディオを見上げながらゆるゆる横に首を振る。

 ブリオネス公爵は顔を隠すように手で覆って俯き、ミリアムはクラウディオの声に肩をすくめ顔色を無くした。


 これがきっと彼等の犯し続けてきた罪なのだろう。確かにこの事実は大罪に相当する。だから王の声を封じたのだ。自分の子じゃないと言わせない為に。


「何を……おかしな事を……。わたくしが産んだ子は2人共陛下との間に出来た子よ。わたくしがそう言うのだから、それが事実なの」

「いいや、余との間に出来た子では無い。いい加減、現実を見たらどうだ、アデルミラよ」

「……へ…陛下?!こ、ここっ…こここ…声が」


 側妃は驚愕の顔で王を見た。もちろんブリオネス公爵も王を見る。その顔からは全ての表情が消えていた。


「あれから何年経ったと思っている。余にかけられた前魔法師長の呪いは王妃が解いてくれた」

「愛の力ですわ、陛下」

「そうだな」


 王の傍で立っていたメイド姿の王妃がニコリと微笑みかけると彼も見上げて微笑み彼女の手を取って口づける。


「お黙り! 部外者が口を挟まないで頂戴! 早く出ておゆき!」

「いやだわ、まだ気づいていないの? ワタクシは部外者では無いわよ。それとも忘れてしまったのかしら? 魔法師以外で魔法が使えるのはワタクシくらいでしょうに」


 王妃がサッと髪の色を戻すと側妃の目はこれでもかというくらいに見開かれた。

 半年くらい前に1度葬儀で姿を見せていたはずなのに気づかないなんて。1度追いやった王妃の事は魔法師が死にそうになっていると言うだけで安心しきっていたのだろう。

 誰も王妃がメイドに変装して歩き回っているなんて思わないが、顔を見ればすぐに分かるはずだ。変えていたのは服装と髪の色だけなのだから。


「両親や周囲から王妃になる事を期待され、ワタクシが嫁いで来た事で貴方の立場が無くなってしまったのは運が無かったと思うわ。勝手に期待され望まれて、それに応えようとしただけですもの。だから前ブリオネス公爵が強引に側妃にさせた事も黙っていた。いつか貴方が本当に愛する方の元へ行けるように時間を作ったつもりだった……。陛下も同じ考えだったからこそ貴方の元へは行かなかった。愚かな事をしてくれたものだわアデルミラ」

「違う。わたくしが産んだ子供達は……クラウディオを……」

「……姉上、止してください。もう夢を見るのは終わりです。いえ、終わりにしましょう」


 ブリオネス公爵は側妃の肩に触れて首を横に振った。


「まだ終わりじゃない……っ! 神血の一族であるブリオネス家こそが正統な王家なのよ!」


 こぶしを床に叩きつけて側妃が叫ぶ。それと同時に彼女からありえない音がした。何かとても固い物を床に叩きつけたような音だ。

 少しの間じっと動かなかった側妃はおもむろに床に叩きつけた方の手をじっと見て、それから身に付けていた肘まである手袋を外した。


 ――指が無かった。


 彼女の手は透き通った石ののようになっており、先程叩きつけた衝撃で無数のヒビが入り、指だけが全て砕けた跡を残して無くなっていた。


「このわたくしが身を以てセシリア・クロウの呪いを退けた結果ですわ。これを見ても終わりだと言えて? 神血の一族であるわたくしが身を呈しているからこそ、こうして人々が平穏に暮らせているのですわ」

「アデルミラ、それは違うわ。貴方がそうなったのは神殿にある女神像のせいよ。セシリア・クロウの呪いのせいじゃない。国中の魔力を女神像を通して吸い取っていたからよ。こうなった以上、貴方は長くないわ。その手が高純度の魔石に変質してしまっているのだから」

「これはセシリア・クロウの呪いよ!」

「アデルミラ、貴方がワタクシの子供達の命と引き換えにベラーク国民が魔法を扱えない原因を調べろと言ったのよ。だから徹底的に調べてあげたわ。貴方が認めようが認めまいが、事実を述べているのよ。セシリア・クロウの呪いの影響では無いわ。神血の一族なんてそんなデタラメを正統化する為に自分の体を張るなんて、なかなか出来ない事ですけどね。ブリオネス公爵は知っていたのではないかしら?」


 王妃の視線がブリオネス公爵に向けられると彼は小さな声で「はい」と答えた。


「当主を引き継ぐ際に伝えられる事ですから……。王妃殿下のお考え通りです。父は自分の子が王になるのを望み、用が済めば姉を魔石化して口を封じようと考えたのです」

「お父様がそんな事を考えるはず無いわ! わたくしを誰よりも大切にしてくれたのよ?!」


 残った手でズボンの裾を掴んだ側妃をブリオネス公爵は意に介さず、王へ顔を向けたまま話続けようと口を開く。


「父は己の望みの為ならば家族にも平気で嘘くらい言います。王家に嫁いだ女性と深い仲になるより、自分の身内が王家に入った方が会いに行っても不自然に思われませんから。子を産んだ後は用済みですがね。あの規模の女神像を作らせたのは早く姉上に消えてもらいたいからです。完成を前に父は病で世を去りましたし、意外にも姉上は長く生きた。姉上はどうやら魔力を保持できる容量が大きかったみたいですね」

「……そんな…嘘よ」

「私は父から伝えられた時、なんて愚かだろうと思いましたよ。前魔法師長はこうなる事を知っていて姉上の策略に協力したのです。高純度の魔石はとても貴重ですから。こうして魔石化が始まっているとなると長くは無いでしょう。姉上が完全に魔石化してしまえば後は徐々にベラーク国民達も魔法が使える者がちらほら出始めるはずです。これは呪いを阻止しているのでは無く、大量の魔力を吸収し続けてきた結果です。神の血を引く一族だなんて口に出すのも恥ずかしい」


 力が抜けたように掴んでいた手が離れるとブリオネス公爵は片膝をついて王を見上げた。


「陛下には長年苦労を強いてしまいました。これも私が至らないばかりに父と姉の愚かさを止められなかった。ブリオネス公爵家は本日をもって爵位を返上いたします。私と姉の処罰は受け入れますが、せめて家族と兄弟達の命だけはどうか……」

「いえ、公爵。それならば僕も同罪だ。存在そのものが罪の証なのだから」


 側妃を挟んでクラウディオは前に進み出て跪く。

 王はそれを見下ろして1つ溜息を吐いた。

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