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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
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第3幕ー5 オリビアは見た!

 シャーロットとはあれから何度か王都へ出て案内しきれなかった場所へ連れて行き、彼女はいくつかお気に入りの場所を見つけたようだ。1人では決して屋敷から出ないので私かイザベル、もしくは義理の兄になるシリルが連れ出す形になる。

 ベラーク国へ来て毎日どこかしら連れ出されるのでシャーロットは疲れたと言い、外へ出たい時は伝えるという事になった。


 本日、イザベルがシャーロットと2人でどこかへ出かけている。シリルは全く気にした様子も無く父と一緒に商会へ行ってしまった。

 私はというと、王城にて浮気現場を目撃中である。


 栗色のふわふわした髪の令嬢と腕を組んで、庭を散策している婚約者の後ろ姿だ。エスコートとは到底呼べそうにないくらい、体をアルベルトの腕に密着させている。


 かつて何度も見た事のある光景を久しぶりに目の当たりにして、幻でも見ているのではと思った。

 約束の時間までまだ少しあるから放置するべきだろうか。ただの案内かもしれないし邪魔するのもどうかと思う。きっと割り込めば、彼か彼女のどちらかが庭を案内していた、と言うのだ。

 欲しいから我慢して待ち続けたというアルベルトの気持ちは終わってしまったのだろうか。

 動揺して1歩も進めなくなり、目を閉じ息を吐いた。


 まだ断定するのは早い、冷静な部分がそう告げる。

 目を開けると1人増えていて、クラウディオが令嬢を背後に隠し、男同士で揉めているような場面になっていた。すぐにアルベルトはその場を離脱し、こちらへ歩いて来て私に気づき、駆け寄ってきたのだった。


「……見ていたのか」

「それはもう、しっかりと」


 深く頷くと気まずそうな顔をした。

 あの令嬢がクラウティオがプレディエール国から連れてきたという、エミリア・バルバーニー……。プレディエール国で何人もの令息を虜にしたというが、遠目から見た感じ魔性の魅力を持っているようには見えなかった。


 離宮へ移動し、アルベルトは妹が残していったレシピで淹れた冷たいお茶を出して私の隣に座る。それから両手で顔を覆って俯き、長い溜息を吐いた。

 溜息を吐きたいのはこちらである。


「勘違いしないで欲しいのだが、彼女は、バルバーニー嬢とはそういう仲じゃない。王城内の部屋でオリビアを待っていたら勝手に入って来て、庭を案内しろと連れ出されたんだ」

「拒否できたと思うけど?」


 思っていたよりも恨みがましい声で言ってしまう。


「最初は拒絶したが、何故かそうしなければならない、という気持ちになってしまって、強く拒絶出来なかった」

「なにそれ……」

「変に捉えるなよ。弟が連れてきた女性に横恋慕するような趣味は無い」

「……」


 そうは言われても複雑な心境のままだ。アルベルトに引き寄せられ、腕の中に収められる。頭上でアルベルトがふっと笑うのが聞こえ、きゅっと抱きしめる腕の力が強くなった。


「オリビアはこれまでの婚約者に対して淡々としていたからな。嫉妬してくれるとは思ってもみなかった」


 言われて初めて嫉妬していたのだと気づかされ、顔を上げられなくなった。アルベルトが別の女性と体を密着させるようにして腕を組んで歩いている姿は、決して良い気分では無かったのは事実だ。

 けれども、それをアルベルトに指摘されるのは少し腹が立つ。


 抱きしめられているのを良い事に胸に顔をくっつけてじっと耐える事にした。

 指摘したアルベルトは困惑から機嫌の良さそうな声になっており、上を向かせようと頬や顎の下をくすぐり始める始末だ。


「どう見ても疑われるような状態だったと思うの。あんなに体を密着させて……」

「あれはバルバーニー嬢が押し付けてきただけで嬉しくも何もない。気になるのなら今から上書きするか?」


 思わず上を向くとアルベルトと目が合い、微笑まれる。

 あ、これは……と思った瞬間に、私はアルベルトの口を手で塞いだ。


「…………そうやって誤魔化そうとするのは、ズルいと思わない?」


 伊達に5回も婚約破棄されてない。過去にそうやって元従妹マリアとの逢瀬を誤魔化そうとした人がいたのだから。あの時はドロテアがうっかりフォークを投げ飛ばして事なきを得たが。


「今はアルを信じる」

「……悪かった。ごめん」


 不本意だと言うのなら信じるしかない。私の中でエミリアに対する警戒度がぐっと引き上がったのは確かだった。

 彼女に接触してみるべきか迷う所ではある。ベラーク国の王太子であるクラウティオがプレディエール国から連れてきた女性だ。エミリアも自分の生まれ育った国を捨ててまで、付いてきているのだから馬鹿な事はしないだろう。

 ここで失敗すれば身1つで国を追い出される可能性もあるのだから。


 そう考えて傍観する事にしたが、私が思うよりエミリア・バルバーニーという令嬢は予想の斜め上をいく人だったと後日知ることになる。

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