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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
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第3幕ー4 プレディエール国からの来訪者

 プレディエール国へ行っていた双子の姉の1人、イザベルが婚約者と知らない令嬢を連れて帰ってきたのはクラウティオが帰国して1週間近く経った頃。


 イザベルの婚約者はプレディエール国に住む一族の人間で、シリル・クロウという。黒髪に金色の目を持つ義理の兄になる人だ。近々クレーエに替わり家督を継ぐ予定である。

 リリアナはラウルとフェリシアナをラフィーク国へ送り届けたまま帰ってきておらず不在。もっとも、リリアナの婚約者はラフィーク国に住む一族の人間で、婚約者の事が大好きだから当面帰ってこないと思う。


 だからイザベルはずっと一緒だった片割れが居なくなり、寂しくなってしまったから令嬢を攫ってきたのかと思った。

 令嬢はシャーロットという名前で家名は不明。薄い茶色のストレートヘアをポニーテールにした凛々しいという言葉が似合う令嬢だ。


「事情があって連れてきたのよ。ちゃんと許可は取ってあるわ」

「……よろしく頼む」

「この方はとても高貴な方だから変な事を教えないようにね」


 紹介されたシャーロットが軽くお辞儀をした。

 シャーロットという名前でプレディエール国では高貴な身分……。1人しか思い至らないのだが。


「まさかと思うけれど、王女様……でしょうか?」

「今はただのシャーロットだ。畏まらないでくれないだろうか」


 とんだ無茶振りをしてくるものだ。ベラーク国で現在ほんの僅かでも失礼があってはいけない人ナンバー1である。本当に、この人は何を言っているのだろうか。


「正式な訪問では無いもの。親戚だと思って仲良くして頂戴」

「なるほど、親戚か」


 良い案だと言わんばかりに目を輝かせ、その目を私に向けてきた。


「イザベル姉様は今、この国がどういう状況にあるのか知らないから」

「知っているわよ。プレディエール国に居たのだから。我が国の王太子殿下がエミリア・バルバーニー欲しさに婚約破棄を宣言して逃げてきたのでしょう?」

「だったら何故……」

「そこに別の人の狙いが隠されているからよ。簡単に近づけない相手の心を掴むなんて協力者が居なければ出来ないわ。オーリも知っていると思うけれど、エミリア・バルバーニーは男爵家の娘。会う機会なんて年に1度あるか無いか、城へ入れるのは、その1度しか無いの。ベラーク国の王太子が勝手に入城許可を出せ無いとしたら、ねぇ?」


 そう言われてみれば、そうかもと思う。

 入城出来るのは決められた人だけで、大抵は男性のみ。女性は使用人か王族と血縁がある人に限られる。


「エミリア・バルバーニーとは友人関係では無かった。それこそ婚約破棄騒動で初めて認識したくらいだ。恐らくわたしの友人達も同じだろう」

「凄かったのよ。王太子殿下含む5人が一斉に婚約破棄を宣言したのだから。次の王の側近になる予定だった方々が揃ってエミリア・バルバーニーを選ぶと言ったのよ。一気に注目が集まって恨みも大いに買ったわね。その日のうちにベラーク国へ逃げてきたのは利口な判断ね」

「大切な証人を消されては困る。今は混乱に乗じて泳がせることにしたのだ」

「そういう事だから2カ月程滞在することになるわ。束の間の自由なの、シャーロットの希望通りにして頂戴」


 長距離の移動で今日は疲れているから明日王都の街を案内してあげなさいと勝手に予定を決められシリルとシャーロットは用意されていた客室へ、イザベルと私は自室へ移動した。


 翌日イザベルの言いつけ通り、シャーロットを連れ出して王都の街を散策すると、珍しそうにキョロキョロして歩く。そのうち転びそうだと心配になって手を繋ぐと彼女は少し驚いた顔をしてすぐに笑みを浮かべた。


「すまない」

「そんなに珍しいものが多いですか?」

「そうだな。こういう繊細な芸術品は馴染みが薄いからね。カップや装飾品に繊細な絵柄を入れた物はあまり無い、あっても普段使いできるような代物では無いよ。ああ、そうだ。神殿にも行ってみたいんだ。この国の女神像が圧巻だと聞いて見てみたいと思ったんだ」


 あの趣味の悪い女神像ね……。

 誰がモデルになっているのか知らなければ立派な観光スポットになるらしい。

 姉達から聞いた話では女神像があるのはベラーク国だけだという。女神の姿というものは聖典で語られるだけで形にするのは恐れ多いと考えられているためだとか。


 興味があるのならとシャーロットが希望する神殿へ連れて行くことにした。ここから徒歩で10分程度、歩くのが苦でなければ遠くは無いだろう。

 神殿の前まで行くと立派な馬車が停まっていて、そこに若い男女が乗り込むところだった。見るからに貴族だと分かる。

 急にシャーロットが歩くのを止めて、じっと神殿を見上げ溜息を吐いた。


「建物まで立派なんだな……わたしが知っている神殿とは違う。プレディエール国の一番大きな神殿はもっとシンプルな外観をしているんだ」

「じゃあ中に入ったらもっと驚くかもしれませんね」

「楽しみだ」


 そして私達は神殿の中へ入る。普段は人がまばらで静かなのだけど、今日は少し雰囲気が違っていた。浮ついているとでもいうのだろうか、そういう空気が神殿内にあった。


「忙しくなりますね~」

「でも喜ばしい事だわ。何せ無いと思っていた王太子殿下の婚礼がここで行われることになるのですからね」


 女神像の近くまで行くと女性神官の楽し気な声がこちらまで聞こえてくる。彼女達はそのまま奥へ去って行き、男性神官は何やらブツブツ言いながら行ったり来たりを繰り返していた。


 嫌なタイミングで来てしまった。

 先程見かけた立派な馬車はクラウティオと例の男爵令嬢だったようだ。鉢合わせになる事を考えたら危なかったとも言える。


「……噂通り、立派なものだな」

「そう?」

「……ああ」


 女神像を見上げるシャーロットの表情は見えなかったが、雫が顔から首へ伝って落ちていく。

 どう声を掛けて良いか分からず、知らない振りをしてシャーロットの話に普段通り返すことにした。


「もう少しこのまま見ていても良いだろうか。あまりにも神々しくて……」

「好きなだけどうぞ」


 声が震えているのは上を向いていて上手く声が出せないせい。

 満足するまで鑑賞した後は休憩として近くの喫茶店にでも連れて行こうと考えたのだった。

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