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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
35/52

第3幕ー3 劇の影響力

 中止となった演目は再開され、大きな話題を呼んだ。ちゃっかり私も手を回して中止の原因が何なのか噂として流してある。カレスティア家で働いていたイベッテとイバンはクレーエ家の使用人として、私の情報収集などの手足として働いてくれているので、以前マリアに使った方法をイバンに依頼したのだ。

 年明け早々からの側妃やブリオネス公爵家に対する反発もあって爆発的に広まってくれた。お陰で最終日までチケットが手に入らないほどの盛況だった。


 私が誕生日を迎えた翌日から次の演目が上演される事になっている。

 次の演目もフォルトナ作というのは驚きがあったらしい。

 年1公演、それを見た人々が誰がその物語の主人公になるのか気にしているのだ。これまでは国内の貴族がそれに当たる。


 3年程前は財産を持っている本物の子爵夫人が夫の陰謀により離れに閉じ込められていた事が明るみに出て子爵が処刑され、2年前は伯爵夫人が道ならぬ恋に身を滅ぼした。1年前は子爵家の次男が突然留学すると言い出して家を飛び出したらしい。

 それらが起きる前年に上演された劇が立場や地位等わずかに形を変えて現実となった。全て偶然だとしても性別年齢全てが正体不明の劇作家、しかもその劇が未来を予言しているとなれば人の興味を引く。

 前作が側妃によって一時的に止められていた事もあり次作はやはり話題を呼んだ。


 劇場所属の劇団員達の気合もあって次の演目が上演されるまで通常ひと月は準備期間として休むところがたった1週間で上演にこぎつけている。

 彼等も何か思う所はあるらしい。


 『新月』と名付けられたその演目は見た人達の憶測を呼んだ。王子役と男爵令嬢役に誰が当てはまるのだろうかと勝手に予想する。もっぱら話題の的になっているのはブリオネス公爵家の令息マルコスとロレンソ男爵家の令嬢エメリナだ。

 マルコスにはサンチェス侯爵家にナタリアという婚約者が居る。婚約者との仲も良好だったはず。けれどもエメリナとの噂が立つ程の何かがあったらしい。

 フォルトナ作の劇のせいでナタリアとエメリナの仲は傍から見て険悪となった。


 たかが物語1つで引っ掻き回されて大変面白い事になっている。実に愉快。

 ――と、エルネストが教えてくれた。彼はフェリシアナにしてきた仕打ちを面白く思っていなかったので、内側から揺さぶられている事態をそう評した。


 アルベルトが屋敷へ来たので久しぶりに四阿に行かないかと誘ってさわやかな気分でお茶をしている。夏が近いせいか涼しい風が気持ちいい。


「今日城の入り口でマルコスとナタリア嬢の口論があったぞ」

「え、嘘っ。気になるわ」

「ナタリア嬢が強引に婚約破棄の手続きをしようとして必死にマルコスが止めていたがな」

「あらら」


 大変なことになったものだ。他人事だからふわっと思うけれど。

 婚約破棄になったらエメリナの立場も微妙になるだろう。マリアみたいに婚約者を横取りする女性だと見られるだろう。あれは周りを全く気にしていないマリアだったからこそ平気な訳で、普通の令嬢ならば肩身が狭い。特に男爵家の令嬢ならば侯爵家に睨まれて外に出られないのではないだろうか。


 私の耳に入ってきた話の1つにエメリナがナタリアに向かって「フォルトナ劇の予言はマルコス様とわたしの事を指している」と言ったというのがある。事実かどうかは不明だが、これが本当の話だとしたら上の身分である侯爵家の怒りを買ったも同然。社交界でのエメリナ・ロレンソの居場所は無くなっただろう。


 これはこれで話題性が出てまた劇場が大儲けする。エルネストの笑い声が聞こえてくるような気がした。


 しかしそれ以上の話題がこの国にもたらされた。

 プレディエール国へ留学していた王太子クラウティオが女性を伴って帰国したのである。連れてきた女性はプレディエール国の男爵令嬢であり、本来の婚約者である王女では無かった。しかも王女とは婚約破棄を宣言し、連れてきた男爵令嬢を婚約者にすると言い、周囲を困惑させる。


 何故ならその男爵令嬢はどう考えてもプレディエール国の王女の恨みを買っているのは間違いなく、国家間で険悪になるのは非常に困る。ベラーク国は魔法が使えない分自国を守る力としてプレディエール国の力が欲しいと思っている。


 ラフィーク国とも同様の同盟が組まれているが、実質プレディエール国側の方が上である。ベラーク国とプレディエール国の間に挟まれている国、リオニール国という国があり、プレディエール国はリオニール国を長きに渡り友好国としているからだ。


 何が問題かと言うと、リオニール国を敵に回したくないの一言に尽きる。リオニール国には“西の塔”と呼ばれる施設があり、そこでは頻繁に新たな薬や魔法、魔術の開発や解明をしており、彼等は実験と称し山を一瞬にして1つ消し去る事すら平気でやる。


 つまりプレディエール国がベラーク国を敵国と見なせば自動的にリオニール国がプレディエール国の味方として付き、一瞬にして国が滅ぶ可能性が大いにある。

 すぐにでも男爵令嬢を引き離して国へ送り返すのが一番なのだが、クラウティオがそれを許さないのだ。

 王城ではクラウティオを説得しようと試みているが、耳を貸そうとせず周囲を困らせているらしい。


 王太子クラウティオとプレディエール国の男爵令嬢という条件の合う2人が現れた事により、フォルトナ劇『新月』の予言はクラウティオと男爵令嬢エミリアの事を指しているのではないかと見られ、注目と話題を集めているのだった。

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