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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
34/52

第3幕ー2 フォルトナ劇開演(下)

 全く何も困っていない顔でエルネストは空いている1人掛けの椅子に座り、長い足を組んだ。

 エリアスの話しぶりからしてラサロ公爵家の財源が危機だというのに、のんきな様子で微笑みを浮かべながら私達を見回し、それから首を傾げた。


「何だい? 全員で僕を見て。そうか僕の格好良さに見惚れているんだね?」

「兄さん、違うから。劇場が閉鎖になっただろう? それで心配して来たんだよ」


 指をパチンと鳴らしてエルネストが言うとエリアスは一気に脱力してしまったのか項垂れた。


「何だ、そんな事か。それなら大した問題じゃないよ。中止にしろと命令した王城に損害金を請求したからね。エリアスからどこまで聞いているのか分からないけれど、先程来ていた人は宰相殿が遣わした使者だよ。くだらないことにお金は使いたくないから上演して良いってさ。話題性も上がるし一石二鳥だね」


 執事がそっとテーブルに新たに1つティーカップを置く。それを持ってエルネストはニィと笑みを作った。

 私も含め全員が微妙な顔になった。心配して来たのに、あっさり解決って……。いや、良かったのだけれど。


「ここ最近のアデルミラ妃は短絡的だね。宰相殿が火消しに奔走してばかりだ。僕の所へ来た使者君は疲れ果てた顔をしていたよ。あの様子では他にも何かやらかしているだろうね」

「そうなる前に止めないなんて、たるんでいるのでは」

「そうとも言えるね。ブリオネス公爵家は神血の一族という自負があるから、何をしても許されると思っている人が殆どさ。けれど思っていた以上に反感が大きいから焦っているのだろうね。いやぁ大変大変」


 エルネストはクッと喉の奥で笑う。彼のそういう表情は珍しい。よほどブリオネス公爵家が気に入らないらしい。従ったのも損害金を請求したのも嫌がらせだろう。

 何せ今の劇場はエルネストの趣味がこれでもかと言わんばかりに詰まっているのだから。


 側妃はきっとラサロ公爵夫妻が居ない今なら、とでも考えて手を出したのだろう。彼女にとって昔も今も自分の思い通りにならないラサロ公爵やブロトンス侯爵は邪魔者だろうから。


「ただ次の公演が決まらなくてね……オーリに頼みたい。ストックくらいあるだろう?」

「…………無いわよ」

「リリーが言っていたよ。僕に渡す物は幾つかある候補の中から選んだ物だから、家に沢山あるとね」


 ラフィーク国へ行ったきり帰って来ないリリアナを心の中で恨んだ。余計な事をエルネストに言ってくれたものだ。

 エルネストへは年1回原稿を渡している。もちろん、その間幾つか書き上げた物の中から厳選した1つだ。厳選は言い過ぎかもしれないが、気分がのってきたからガリガリ書き上げたというのもあり、人に見せるのならばとマシそうな物を選んで渡しているにすぎない。


「じゃあ、今から3作程書く? 僕はそれでも構わないのだけど、オーリに出来る?」


 公演が再開するにしても、次の公演までどのくらい……だいたい3カ月くらいか。劇団員達の準備も含めたら……。今すぐにでも必要だろうと頭の中で答えが出た。

 無理だとしか言いようがない。劇団員達は最高の舞台を作り上げる為、どんなに些末だろうと手を抜くことはしない。それが彼等のプライドだからだ。


「分かったわよ、渡すわ。どれにするかは私が決めさせて貰いますけど」

「それで良いよ。オーリの勘は悪くないからね」


 エルネストの求めている答えを言うと私の手を取り、その上にチョコレートを1粒乗せた。


 屋敷に戻ってから夕食に呼ばれるまでエルネストに渡す原稿の選別を始める事にした。机の上に積まれた紙の束達を前にもう気が滅入っている。1つ1つ見返して選ぶのも悪くないが、時間がかかりすぎる。


「でもねぇ……この中から選ぶって、どうやって選んだら良いのか迷うわ」

「再開する劇の名前は『黄昏』でしたよね。でしたら同じような言葉を選んでみるというのはどうでしょう」

「名案ね!」


 ドロテアの提案に重たくなってきた気分が一気に軽くなった。

 1つルールを決めて題名だけでザクザク分けていくと残ったのは6つ。ここから3つ選ばなければならない。


「まずこちらの『新月』ですが、婚約破棄をされた姫君の話ですね。その隣にある『薄明』は国を追われた一家が新たな土地で成功していくもの、それから『天涯』は神話を元に書かれたもの、そして――」


 ドロテアが手のひらサイズのノートをパラパラ捲りながら説明していく。それよりも一体、いつ、そんな物を作ったのか。読ませた覚えは無いし、読む時間だって無いはずだと思っていたのに。


「――で、最後に残ったこちら『星彩』は一族の先祖であらせられるセシリア・クロウ様の話ですね」

「じゃあこれと、これ。うーん…最後はこれで。贈り物として包んでおいてちょうだい」

「荷物に紛れ込ませるのではなく、ですか?」

「ラサロ邸へ納品する物があるの?」

「これからお調べいたします」


 そう都合良くある訳が無いと思いつつもドロテアに確認させると、驚くことにあった。

 リリアナが出発前に準備をしていたと思われるプレゼント包装された物が1つ明日届けられるようになっていたという。エルネストの誕生日だったのだろうかと思いつつ、丁度良いから一緒に持って行ってもらう事にした。


 選んだ3作の内、1つは過去の出来事をそのまま書いている。足りない部分は想像して書いたが、見た人はきっと誰の事か分かる様になっているはずだ。

 私からもほんのささやかな意趣返しをしてもバチは当たらないはずである。

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