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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
33/52

第3幕ー1 フォルトナ劇開演(上)

 寒さが和らぎ春の匂いを乗せた風が吹き始めた頃、それは劇場で上演された。

 昨年私が劇場の支配人であるエルネスト・ラサロに渡した物語に音楽が付けられ、衣装や大道具小道具が作り出され、劇場が抱えている俳優達が満足できる形まで練習を重ね、ついに公開に至ったのだ。劇場に張り出されたポスターには影絵になった人の姿と大きく書かれた『黄昏』という題名、それからフォルトナの名も入っている。


 上演初日のチケットが2枚エルネストから送られてきて、アルベルトを誘い劇場デートをしてきた。初日だからなのか、多くの客が劇場に入り満員御礼の様子に内心嬉しく思いつつも、見終わった後の彼等の反応にドキドキしている。


 毎回この物語の登場人物が誰に当てはまるのか、必ずと言っていい程この話題になるのは分かっているのだが、単純に面白かったか面白くなかったのかという反応の方が私は気になる。


 私が書く物語には元ネタがある。今回は数年前にプレディエール国でイザベルが聞いてきた子爵家のスキャンダルが元になっている。

 ちなみに現在は1人の令嬢がやたらと目立っている状態らしい。話を聞いてみると従妹だったマリアとは違う種類の人気のある令嬢なのだそうだ。さぞ凄い美人なのだろう。そんな美人ならば1度はお目にかかってみたいものである。


 それはさておき、上演が終わると拍手の中、幕が下ろされる。少し経ってからカーテンコールがあり、出演した俳優たちが現れ、観客達は立ち上がって更に大きな拍手を送る。この様子ならば彼等の評価は悪くないだろう。アルベルトからも面白かったという感想を貰えてホクホクしながら屋敷へと帰ったのだった。


 ――しかしその1週間後、突然公演中止となる。


 次の公演の準備が整っていなかった劇場は一時的に閉鎖となり、王都の街中は大騒ぎになっている。理由も無く閉鎖されることは未だかつて無かった。劇場は数カ月同じ劇を上演し終えたら翌日には別の劇が上演されていたのだから。数少ない娯楽の1つとして親しまれていた劇場は、初めて閉鎖になったのだ。騒がれないはずが無い。

 驚いてラサロ邸へ駆け込むと出迎えた執事によって通された部屋で待つように言われた。

 そこにはアルベルト、先日結婚したばかりのエリアスとマルガリータが居た。アルベルトの傍で立っているメイドは王妃だった。これは声をかけてはいけないなと思いながらアルベルトの隣に座る。


「やっぱり君も来たんだね」


 エリアスが困ったような顔をして笑いながら言った。私達は同じ考えでラサロ邸に集まったらしい。


「兄さんは今客人と話し中だし、他にも閉鎖に関して対応する事が多いから。先にセバスチャンから聞いた話では公演中止はアデルミラ妃の命令だそうだよ。あの劇は人々に良くない影響を与えるという理由を付けてね」

「えっ? あの劇の話はフィクションでしょう? まさか本気に取ったと言うの?!」


 私が不安に感じていると思ったのか、アルベルトが手を上に重ねて軽く握ってきた。


「アデルミラ妃には昔そういった噂が立っていたから、思い出して腹を立てたのかもしれない」

「アルが正解だね。こうして思い出す人もいるからアデルミラ妃は封じ込めようとしているのだと思うよ。劇場が閉鎖となれば過去の噂を再び口には出来ないだろう?」


 今度は側妃が作り話を本気に取ったのかと驚いた。

 私が作り上げた物語は劇場で上演された後、見た誰かがそれを自分の物語だと思い込み行動に移す。

 そうなるように誘導する気は全く無いし、していないと断言できる。これまでの全てが劇中の主人公を何故か自分の事だと思って行動するのだ。最初こそ馬鹿な事をと思っていたけれど、まさか過去と重ね合わせて、自分の事だと思う人は初めてだった。


 未来を予言していると言われているフォルトナの物語が過去を見せたなんて格好悪い。正体不明な上にそういう部分も含めて興味を持って見に来てくれているので、やはり結果として先の未来で起きてもらいたい。


 中止になった劇の主人公は社交界に突如現れた男性だ。公爵家の友人として他国からやって来たという主人公に貴族達はとても興味を持つ。とても見目の良い男性で面白い話などを沢山知っており、一気に彼は人気者になる。


 問題視されている部分は主人公が関わった伯爵夫人の子供の父親について言及されるシーン。物語として主人公の本当の目的に関わる部分だ。自分を追い出した継母と結婚した夫との間にできたとされる弟の実の父親が違う。血のつながった弟の父親を連れてきて、過去の不倫を暴露され追い出される流れになっている。


 そこに側妃は自分の未来を感じてしまったのだろうか。いくらなんでものめり込み過ぎだろう。


「それなら聞いたことがあるわ。クラウティオ殿下とミリアム殿下の本当の父親が陛下では無いっていう噂でしょう? そんなの噂でしか無いのに一体どうしてしまったのかしら。これではまるで暴君じゃない。やっぱり王妃様が出てこられないのが痛いわね。誰も止められないのだもの」


 側妃の横暴と嫌がらせは今に始まった事ではないと私は思っている。

 昨年のお茶会でラウル・カベサスがその場でミリアムとの婚約を断った後、側妃派の家に属する夫人達は毎日カベサス夫人を見舞いと称して訪ね疲弊させていたのだ。恐らく夫にも考え直すよう説得しなさいと言われている人も居るだろう。

 彼等の必死さを見るにブリオネス公爵家と側妃のひと言でこの国は動いているのだ。逆らえば簡単に命すら失う事を知っている。


 でもそれは側妃派だけの話であって、王妃派と中立に側妃は簡単に手出しが出来ない。王妃派にはブロトンス侯爵が、中立には王弟であるラサロ公爵の庇護がある。


 ブロトンス侯爵家は外交で他国との結びつきがあり、ラサロ公爵家は王弟でありながら神殿との結びつきがある。そしてベラーク国の売りである芸術的方面に関してラサロ公爵は熱心に人を育てていた。繊細で美しい細工を施した道具や装飾品、絵画等は他国にとって持っているだけで自慢できるくらいに昇華されている。


 アルベルトとフェリシアナが王城で側妃の手の者に殺されそうになり、間一髪で助け出され避難した後、ブロトンス侯爵とラサロ公爵が側妃と前ブリオネス公爵に対して実力行使と脅すくらいの事はしたらしい。

 それもあって側妃は手を出さないと聞く。


 ちなみにブリオネス公爵家は長きに渡り宰相を担っており、国政の全てを牛耳っている。神血の一族なんて言われているが、今は意外に神殿との繋がりは薄い。前公爵の時まで強かった繋がりが現公爵になってから薄れたというべきか。


「それにしても……本当の父親が陛下じゃないとしたら誰なのかしらね。ミリアム殿下はアデルミラ妃にそっくりだし、クラウティオ殿下の顔なんてもう忘れてしまったわ」

「リタ、そういう事は外で言っては駄目よ?」

「分かっているわよ。でも火のない所に煙は立たないと言うじゃない。オリビアも気になるでしょう?」

「……まぁ、ね」

「意外とブリオネス公爵との間に出来た子供だったりしてね。アデルミラ妃は王族に輿入れするために養女として親戚から引き取られたのよね」

「リタ、もうそれくらいにしなよ……ね?」


 エリアスがマルガリータの顎を掴んで自分に向けさせ、ニコリと良い笑顔を浮かべて言うと彼女は顔が急に赤くなって掴まれた手を払いそっぽを向いた。

 何となく察し、見なかったことにして横に逸れた話を戻すことにした。


「事情は分かったけれど、この先劇場はどうなるのかしら。次の演目は決まっているの?」

「こんな状況下で自分の作品を取り扱って欲しいなんて言う人は居ないよ」

「それ、劇場の運営は絶望的という事よね」

「そうなんだよ。あの劇場って他国からわざわざ見に来る人もいるし、結構いい財源なんだよねぇ……どうするんだろう」

「お、揃っているね~何だい? 何だか暗くないかい?」


 場の空気に合わない、のほほんとした口調でエルネストが現れた。

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