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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第1幕
23/52

【幕間】ある夫人の半生

クレーエ夫人(双子の姉とオリビアの母)の話

 10歳の時に新しいお母様とお姉様ができた。ワタクシを産んだお母様は産後の肥立ちが悪く亡くなっている。亡くなってからも10年母を想い続けた父は突然娼館から後妻として連れきたのだ。

 黄金のような金髪、空を映したような青色の目の2人は息を飲むほど綺麗な人だった。


 一緒に暮らすようになって、お姉様は私の部屋から勝手に物を持っていくようになった。人形、服、お父様から貰ったペンダント……。

 玩具ならばまだ我慢出来たし、服も平民みたいな恰好でいるよりは良いと思って我慢できた。でもお父様から貰ったペンダントだけは駄目だ。あれは中にワタクシを産んだお母様の絵姿が入っていた。

 中々返そうとしないお姉様についにワタクシは泣き出して、間に入ったお兄様が取り返すなんて事が起きた。

 そのせいで新しいお母様はお兄様とワタクシの事を嫌うようになった。未だに亡くなった母を思う事が気に入らないようだった。


 同じデザインの色違いの服を作ってもお姉様は「やっぱりこっちが良い」と言って持って行ってしまう。取り替えるのでは無く、持っていく。

 数年後にはワタクシの服はお姉様が飽きて着なくなった服ばかりになった。お兄様がお父様に抗議しても新しいのを作れば良いというばかり。次第にお兄様とお父様の間に溝が出来て、新しい家族に馴染もうとしないお兄様をお父様は王都の騎士団へ入れてしまった。

 騎士団の訓練は逃げ出す人がいるくらいに厳しいらしく、お兄様は5年騎士団に所属したらイングレース家の家督を貰う約束をお父様と交わして行ってしまった。


 お兄様が居なくなってからお姉様が次に目を付けたのはワタクシの婚約者でもあったレオボルト・カレスティア様。レオボルト様はお兄様の代わりに毎月会いに来てくれて、その時だけはワタクシは味方の居ないこの屋敷の中で安心できた。

 お兄様とお父様が交わした約束の5年が経った日に式を挙げようと約束し、ワタクシは耐えて待ったのだった。お姉様がレオボルト様と親しくなろうとしても彼が拒絶してくれたから、お母様とお姉様の仕打ちに耐えられたのだ。


 約束の5年が過ぎ、ワタクシがついに婚礼を挙げる前日、お姉様が今までの事を謝りたいと言ってお茶に誘ってくれた。

 今思えばそれは大きな間違いだったのだ。そのお茶には眠り薬が入っていて、知らずに飲んだワタクシは深い眠りにつき、納屋に閉じ込められた。目が覚めた時、お姉様に嵌められたと激しく後悔し、納屋から出られそうな場所を探したり、ドアを激しくたたいて大声で助けを呼んだりもした。


 ワタクシが助け出されたのは深夜だっただろうか。声が枯れ疲れ果て、蹲っていたところをお兄様が見つけてくれた。そして今日が結婚式当日で、姿を見せないワタクシの代わりにお姉様が花嫁になったと聞かされ目の前が真っ暗になり、ショックと疲れもあってワタクシは3日間熱を出して寝込んでしまったのだった。


 お兄様はお父様から家督を継ぐ手続きを済ませてしまうとワタクシを連れて王都にある町屋敷へ連れて行き、そこで暮らすようになった。何もする気が起きず、何を食べても味がせず、ぼうっと過ごしていた。


 ある日、お兄様は友人を1人連れてきた。

 ファウスト・クレーエと名乗った彼はこげ茶色の髪に金色の目を持った不思議な雰囲気の方だ。

 伯爵家の嫡男でありながら商人でもある彼は色んな国へ行く。知らない国の話を聞かせてくれたり、見た事が無い小物を持ってきて見せたりしてくれたが、ワタクシの心は全く動かなかった。


「オレが思うに奪って良い思いだけををしようとする奴って、いつかはその報いを受けるんだよ。特に欲の深い奴ほど大きい。これでも色んな人を見てきたから、そういう奴を何人も見てきたつもりだ。意外と釣り合うように出来ているんだとオレは思う。君の姉は特に欲が深そうだ」


 お姉様が受ける報い……それはどんなものだろう。

 今まで奪われてきたものを思い返して、受けるだろう不幸に可哀そうだなと思った。



 それから時は流れて、ワタクシはお姉様が亡くなったと聞き、夫となったファウストと一緒に神殿にいる。

 お姉様の侍女をしていたという使用人から渡された手紙には彼女のその後の不幸が数枚に渡り恨み辛みとして書き綴られていた。本当の届け先は違うのだろう。誰の判断かは知らないけれど、何か意味があるのかもしれない。


 神妙な顔で参列者に挨拶するレオボルトを一瞥し、手紙に視線を落とす。口元に手を当て、肩を震わせた。


「ふ…可哀想なお姉様……」


 俯いて呟くと夫はワタクシを抱きしめて背を撫でた。

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