【幕間】その夫人は……
カレスティア夫人その後。
王城での一件以来、レオボルトはマリアを除籍して神殿へ追い出し、あたくしは王都を離れカレスティアの本邸と呼ばれる田舎へと連れられ、部屋に閉じ込められた。その部屋は妻が使う部屋では無く、夫の部屋から離れた客間。
妻として扱う気が無いのは明らかだった。一応侍女は付けられたが、彼女は決まった時間に決まった事をするとすぐに出て行ってドアにカギを締められる。広く輝いていた世界は今や物置部屋のような狭く寂しい部屋に変わった。
あたくしの母親は娼婦で、運良くイングレース子爵に見初められ後妻として入った。
それまでのあたくしは母親の務め先である娼館で下働きをしていた。他に比べたらそれ程酷くは無いと思うけれど、酷い客が来た日なんかは最悪だ。今でも思い出したくはない。
初めて顔を合わせた兄と妹は汚い世界なんて全く知らない、とても綺麗な子達だった。世の中にこんな子供がいるのかと驚いたくらいだ。
あの綺麗な子から奪ったら薄汚れたあたくしも同じになるのではないかと思った。
妹になったアレシアは恰好の標的だった。彼女が持っている綺麗な物、大切にしている物を取り上げて自分の物にした。母親は最初こそ好意的だったけれど、あたくしが前妻の形見を取り上げた時、いつも以上に抵抗した事を知って前妻が生んだ子を疎むようになった。
父親が居ない日中は母親とあたくしの天下となった。
特に欲しいと思っていたのは彼女の婚約者レオボルト・カレスティア。
元から綺麗な少年だった彼は大人になっても変わらず綺麗だった。社交界に出るようになると、どこぞの令嬢が彼をうっとりと見つめる。彼を手に入れたらさぞ気分が良いだろう。でもあたくしがどんなに誘っても彼は誘いに乗らなかった。
社交辞令として会話を交わすだけで彼の視界に入る事が出来ない。
だから彼にあたくしを見てもらうために強引に妻の座に収まったのだ。
この狭い部屋に閉じ込められてから彼の怒りが鎮まるのをじっと待っていた。
ある日の夜、夕食を部屋に置いた侍女はドアにカギを締めるのを忘れて出て行った。それに気づいてあたくしは久しぶりに部屋の外へ出た。レオボルトの顔が見たかった。これまで大人しく部屋の中に居たのだから許してくれると思っていた。
あたくしがそこで見たのはレオボルトと彼より少し年が若い女性、それにマリアと年が同じくらいの男女。その部屋には家族があった。レオボルトはあたくしには見せない笑みをその女性に向けて何やら話していて、隣にいる女性はクスクス楽しそうに笑う。
彼女はアレシアに面影がとてもよく似ていた。
「……その女は誰?」
思わず部屋に入ってレオボルトに問いかける。あたくしを見たレオボルト以外の者は緊張してじっとこちらを見つめる。レオボルトは先程まで浮かべていた笑みを消した。
「何故部屋を出た?出るなと言っただろう」
「あたくしはこの者達が何者なのか聞いているのです!あたくしを差し置いて、貴方の隣で妻の顔をしているこの女は誰なの!!それにそこの子供たちは何!!」
「おい、この人を部屋へ戻してくれ」
「嫌っ!触らないで!!」
男の使用人がやってきて、あたくしは何の答えも聞けずあの狭い部屋へ連れ戻された。
無視され続けてきたのに、レオボルトはここに別の家族を作っていた。しかもアレシアを忘れられなくて似た女性を妻として傍に置いていたのだ。
仕事が忙しいからあまり帰って来なかった訳では無かった。
レオボルトはあたくしや娘のマリアが何をしても黙っていう事を聞いてくれた。全て肯定されているのだと、そう思っていた。
「結局あたくしは……――」




