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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第1幕
19/52

第1幕ー19 崩壊を招いた令嬢(上)

 王城の一室でマリアはハンカチを両目に当て俯いてシクシク泣いている。マリアの手首には包帯が巻かれ痛々しく感じられる姿だ。

 謝るだけなのに、わざわざ王城の一室を使い王やブリオネス公爵、それに王妃派筆頭のマルガリータの父ブロトンス侯爵が同席し、思っている以上に大事になっていた。


 そもそもマリアがアルベルトにちょっかいをかけ始めたのがきっかけとはいえ、誕生祭で刃物を持ち出して刃傷沙汰を起こさせたのは私だ。チラリとブロトンス侯爵に視線をやると何故かウインクが返ってきた。 


「クレーエ伯爵、家の者が……」

「マリアがこんなになって可哀そうだと思わないの⁉大勢の前で恥をかかされてっ!」

「ママ……仕方ないよ。沢山の人の前じゃ緊張しちゃうもの、本当の事が言えなかっただけだと思うの」

「ああ…マリア!」

「お前達!いい加減にしないか!今日は一切口を開くなと言っただろう!!」


 謝罪しようとしたカレスティア伯爵の言葉を遮って伯母が我慢できないと声を荒げて私を責め立てた。マリアも伯母に乗っかり話を進めようとしてカレスティア伯爵のこめかみに青筋が立った。

 この場が何のために用意されたのか理解していなかった伯母とマリアを他の全員はしらーっとした顔で見ていた。


 速攻で謝罪の場をぶち壊しにした手腕は誰にも真似ができるものではない。前もってカレスティア伯爵は伯母とマリアにこんこんと言い聞かせるべきだったのだ。

 夜会の後からずっとカレスティア伯爵は伯母とマリアと一切顔を合わせようとしなかった。ただ部屋に閉じ込めて、反省しろと言っただけ。それで反省する2人では無い事を彼は知らなかったのだ。

 家族なのにここまで妻と子に興味が無いなんて余程の理由でもあるのだろうか。


「まぁ良い。カレスティア伯爵、夫人と娘の話を聞こうではないか」

「いえ、ブリオネス公爵。妻と娘は屋敷へ帰します」

「折角設けた場だ、最後だと思って思いの丈を話すが良い」


 王も1つ頷いて促した。カレスティア伯爵の表情は不安に染まり、ブリオネス公爵に視線を向けたが、彼は一切見ない。もう切り捨てられていると思うのは私の望みだろうか。


「あの場で命を懸けろだなんて出来るはずがありませんわ。それにマリアと殿下が婚姻を結べば両派閥の懸け橋になりますもの。これ以上最良の縁談はありませんわ」

「ふむ……」

「これを見てくださいまし!これは殿下とマリアがやり取りした手紙ですわ。読んで頂ければ分かる通り、殿下の想いはマリアに向いているのです。それなのに…あの泥棒猫が邪魔をしたのですわ!」


 テーブルにドンと手紙の束を置いて伯母は勝ち誇った顔で言った。まぁ、その手紙全部私がアルベルトの振りをして、昔の婚約者の筆跡を真似て書いた物だけど。

 各々が手紙を手に取って中身を読み始める。私も怪しまれないように手に取って読んだ。今読み返してもなかなか恥ずかしい文章で、こんな場でなければ床にゴロゴロ転がって悶えていたところだ。


「はぁー……これは俺の字では無い。先日の夜会でも手紙のやり取りなんてしていないと言っただろう」

「確かに殿下の筆跡ではありませんね」

「Aと書いてあるのはアルベルト殿下の名前の頭文字ではありませんか。他に誰がいると言うのです!マリアを弄んで捨てるのですか?」

「アロンソ、アントニオ、アルフレド、アスドルバル……他にもAから始まる名の奴は沢山居る。そもそも筆跡と名前を隠してまでやり取りする必要がどこにある?」

「では誰だと言うのです!」

「そんな事、俺が知るはずが無いだろう。誰と勘違いしているのか知らないが、妄想も大概にしてくれ」

「うわああん!ひどい……アルベルト様。一緒にお庭を散策した時はあんなに優しく微笑んでくださったのに!あの時のわたし達は確かに想い合っていましたぁぁぁああ!」

「可哀そうなマリア!!!!」


 またマリアが声を上げて泣き始めると伯母以外の全員が疲れた表情を浮かべた。すっかり悲劇のヒロインぶっているけれど、恥ずかしくないのだろうか。恥をかかされたと大騒ぎしていた割に自分達で恥を塗り固めている。

 カレスティア伯爵はすっかり顔色が青から白に変わって、膝に乗った握りこぶしがぶるぶる震えている。今にも倒れるのではと心配になった。


「何があっても俺はカレスティア嬢を選ぶことは無い。どこからその自信が湧いてくるのか知らないが、コロコロ恋人を変えるような令嬢はお断りだ」

「それはオリビアちゃんだって同じじゃないですかぁ~どうしてわたしは駄目なんですかぁ~」

「オリビアの婚約者がしょっちゅう変わった理由は君が誘惑して奪ったからだろ。奪った後、一緒に夜会に出席しているのを何度も見た。自慢気にオリビアや俺の前に現れていたじゃないか」

「ああ、確かに。見たことがありますね。カレスティア嬢の身持ちの悪さは有名ですから、もう見慣れてしまってどうでも良くなっていましたよ」

「……へっ?」


 えええ……。自覚が無かったのか、マリアは。

 マリアはポカンとした顔でブリオネス公爵を見た。

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