第1幕ー18 告白
結局眠れず朝を迎え、ネグリジェから着替えて食堂へ向かうと私の分だけ朝食が用意されていた。家族が帰ってきたのは、あれからかなり遅い時間だったので昼まで起きてこないだろう。
ゆっくり時間をかけて朝食を摂り、食べ終わった頃合いにドロテアが食後のお茶と一緒に一報を持って来た。私が望んでいる事がよく分かっている。
思った通りカレスティア邸は大騒ぎでイベッテとイバンは眠る暇も無かったのだろう。
王城から戻ったカレスティア伯爵はマリアの頬を平手で叩き詰ったようだ。その後部屋に軟禁状態となっている。
伯母も気絶したままカレスティア邸へ運ばれて、何も知らずに眠って先程清々しい気分で目を覚ましたらしい。
カレスティア伯爵はマリアを部屋から出さないよう命令した後、書斎へ行き部屋の中を頭をかき乱し、右へ左へウロウロ歩き回り、ブツブツ呟いて朝を迎えたようだ。
「今慌てても遅いのにね」
「そうは言っても抗わずにはいられないのでしょう」
「そうだ、例の物は揃った?」
「はい。昔から記録として残してありましたから、すぐに用意出来ました」
「それは上々。お父様が起きたら渡しておいて頂戴」
カートの上にある紙の束をチラリと見てドロテアに指示しておく。きっと父はこれを使ってくれる。
アルベルトが約束通り訪ねてきたのは家族が起きて数時間経った頃、丁度お茶の時間を狙ってやって来た。
「さて、どこから話すべきか……」
「何言っているのよ。最初からよ、最初から!」
「分かった、分かったから!」
溜息を1つ吐いてアルベルトが話してくれたのは、私の知らない婚約に至るための話だった。
アルベルトと私の間には王族、伯爵家という身分の差があるが、そこは大した問題では無い。伯爵家でも王族と婚姻、更には王妃になった前例もある。
問題なのは私達自身の価値の差だった。
王妃の子で第一王子という立場でありながら王太子になれなかったアルベルトに味方は殆どいない。王妃派と言われる派閥にいる人でさえアルベルトを見捨てているようなものだ。ましてや自分の娘をと言う人はいなかった。
王妃派の筆頭であるマルガリータの家ですら彼を救う事は出来ないくらいに側妃派及びブリオネス公爵家の権力は強力だった。側妃が王に寵愛される状況というのは、このような状況を生み出したのである。
一方私はというと国内で1番とも言える大金持ちの家の娘。たとえ3女で後継ぎになれなくとも持参金や援助が期待できる。大きな商会を持つ家の娘ならば目利きもあり、もしかしたら領地の発展が望めるかもしれない。
姉達は片方は他国から婿養子を迎え入れ、もう片方は他国へ嫁ぐ事が決まっており唯一決まっていない私が狙い目だった。
そういった意味で私は非常に期待され価値が高かった。
「と、まぁ…そういう理由で身分だけ高くても価値が無い俺はクレーエ伯爵に何度も頼んで、ある条件を出された」
「条件?」
「オリビアが他の男と一緒に居るのを我慢しながら見ているように言われた。実際目の当たりにすると辛くて、見ていたら気が狂いそうになるから夜会に招待されても出席は控えるようにしたんだ。カレスティア嬢が略奪したと君の口から聞くたびに安心したものだけど、すぐに次の婚約者が宛がわれるから、いつまで続くのだろうと思って消えてしまいたい気持ちだったよ」
「……それって、まるで私の事が好きと言っているように聞こえるのは気のせい?」
疑問を投げかけるとアルベルトが何を聞いていたんだという顔をした。
「当然だろ。そうじゃなければ何度もクレーエ伯爵に頼んだりしないし、条件を飲んだりしない。耐えたからこそ、やっと婚約者として堂々と傍に居られる訳だ」
急に肩を抱き寄せられ驚いて見上げるとアルベルトは幸せだと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。気恥ずかしくなってしまって見上げるのを止めて頭を彼の肩に乗せて池の睡蓮を見つめる。
屋敷の方から父の従僕が走って来るのが見えて何事かと眉をひそめた。
父の書斎へアルベルトと共に行くと父以外に母と双子の姉が揃って待っていた。姉達は私達をニヤニヤしながら生温かい目で見る。この場所から庭の四阿は丸見えで、私達の様子を見ていたのだろう。
「城から書状が届いた。登城するようにとの要請だ」
昨日の騒ぎについて咎められるのかと一瞬頭をよぎったが、あの場面においてあれだけやらかしても王も側妃も動かなかったし……。何のために登城しなければいけないのか意味が分からなかった。
「殿下には城へ戻った時に知らせが入ると思いますが、カレスティア伯爵から謝罪したいという申し出が来ております。こちらとしては断る理由がありませんので受け入れるつもりです。王城で、というのは第3者を証人とした方が話がこじれないからでしょうな。今回の件で側妃派への風当たりが強くなりましたから。お判りでしょうが、カレスティア夫人と娘は思い込みが激しい……被害者ぶって謝罪どころではないかもしれません」
「……何が起きるか分からないと」
「ただの謝罪で終われば不要なんですがね……心の準備はしておいてください」
父は少し面倒くさそうに書状を指でピンと弾いた。




