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最終話 和解

少し書き直しました。

キャシーの両親もオーストラリアから来てくれた。弟夫婦も呼んだのだが、嫁さんが臨月に近く、今回は来られない。替わりに我々が来年には訪豪するつもりだ。

ご両親には結婚式の2日前から家に泊まって貰っている。私も慣れない英語とジェスチャーを駆使してなんとか会話を行うことになる。

「屋根が長く張り出しているのはなぜか?どうして庇をつけるのか?」

パパさんはオーストラリアで建築会社に勤めていて、家については異常に興味を示しこまごまと質問してくる。

「日本では雨が多く、壁が濡れれば水漏れやカビの心配をしなくてはならない」何とか理解してもらえたようだが、すぐ次の質問が来る。

「車庫を家の中に入れないのはどうしてだ?」あっちではビルトインも多くあるようだ。

「車庫を作ると開口部を広くしないといけないが、そうすると地震に弱くなる。」

などなど。キャシーに通訳をしてもらって、なんとか説明する。

ただ、風呂に関しては説明はいらなかった。

他人と裸で風呂に入る習慣のない彼も、始めは戸惑った。それでも190近い彼が、足を存分に延ばせてもまだ届かない我が家の風呂にはいたく感激してくれた。

「これが温泉か?」

「いや、我が家のものは本当の温泉ではない」温泉の説明はうまくできなかったが、来日のついでに温泉地を案内することで了解してもらえた。

「風呂に入りながら景色を見られるなんて最高だね。どこまでがここの敷地だ」

「あの並木の見える所です」

「随分広いな」そんな会話をのんびりした。

この父も娘同様にすっかり風呂好きとなった。

ママさんには私の手料理をふるまってあげる。

「これは柔らかいし、おいしいです。」

鳥ひき肉を玉ねぎと一緒に丸め、串に刺して軽く焼いてからたれに絡めたのが大好評だった。串に刺して食べる習慣が珍しく随分と盛り上がってくれた。

「結婚式が終われば、札幌や東京で焼き鳥屋に行きましょう」キャシーの両親は3週間ほど滞在するので、日本を案内する予定だ。

渋谷の交差点、スカイツリー、京都の神社仏閣、大阪の食い倒れ。いろいろ見て貰いたいものがあって、キャシーとはどこをどのように観光するか今から検討中である。


そして娘夫婦も家に呼ぶことにした。

北海道に腰を落ち着けるようになって、しばらくして娘からの手紙を受け取った。

「お父さん、ごめんなさい。私は我儘な娘でした。お父さんの気持ちも考えず、あの人と会っていました。それがどんなにお父さんの気持ちを傷つけたのか今はよくわかります。お父さんにすぐに許されるとは思いませんが、いつかお父さんに許されるまで待ちます」

そんな内容だった。

娘もようやく分かってくれたのかと思う気持ちであった。それでいながら私は何年も騙されていたことにやはり大きなしこりを持っていた。

孫が生まれたと言う便りも来たが、お祝いだけを送って、会いたいとは思わなかった。孫の顔は見てみたいと思うがまだ私には裏切られたことに対して、吹っ切れてなかったのだ。娘を許せないとまだ思っていた。

そして、今、結婚するにあたって、娘に電話した。

久しぶりに聞く娘の声だった。こみあげるものがあった。

「私も、結婚することになった。都合が良ければ来てくれないか?」

「え、本当!お父さん良かった。おめでとうございます。絶対行きます」

4年ぶりの娘の声はいつしか涙声になっていた。


式の前日、娘夫婦は孫を連れてきて、駅で再会する。

「おじいちゃんだよ。いい子だ」抱きかかえると手足をバタバタしてきた。

「なかなか元気がいいな」

「目を離すとすぐ、歩きだすんですよ」そしてもう一人も来年には生まれると言う。

「是非、家に泊まっていて欲しい。」私の言葉に娘は嬉しそうに頷いた。

キャシーやその家族を紹介し、すぐ打ち解けてくれた。

これには一緒に風呂に入ったことが大きい。勿論、男は男どうし、女は女だけである。

キャシーパパとジャガイモ婿の大男に挟まれるように、湯船につかる。お湯が湯船からどっとあふれるのはなかなか盛大である。

「これは凄いですね。こんな体験在りませんよ」ぜいたくなお湯の使い方に婿さんもびっくり顔である。

「そうだろう、外の景色もなかなかだよ」

「いやあ、雄大ですね」

「そうだろう、冬の雪景色はもっといいよ」

「僕もスキーは久しくやってないので、今度また泊りに来たいです」娘婿も我が家を気に入ってくれたのは良かった。


娘もキャシー母娘と一緒に風呂に入り一段とわかりあえたようだ。

少し落ち着いてから美優紀と二人になれた。孫をあやす姿には母親としての落ち着きがそこにはある。

「お婿さんとは仲良くやれているようだね」

「ええ、家事も随分手伝ってくれます。料理の腕はお父さんに敵いませんけど」

「はは、私は専業の見たいなものだったから、それは仕方ないよ」

「お父さんたちも仲がいいですね」

「半分、尻に敷かれかけているがね」

「ふふ、お父さんは変わりましたね。随分話が多くなってます」くすっと歯を見せてくれた。

「黙っているとキャシーが怒るんだよ」

「お父さんは本当に幸せになれたのね」その言葉にようやく娘と和解したと実感する。

もう娘には何もわだかまりはない。キャシーと暮らすようになって、心のわだかまりのメモリーは上書きされたのだろう。


今になると昔のことをようやく冷静に考えられるようになっていた。妻に家出され、ずっと憎く思っていた。

それが、キャシーと一緒になって、少し女性の視点で考えられるようになったのだ。

前の妻からすれば私は真面目だけが取り柄の面白くない男と見えたのではないだろうか。

冗談一つ言わず、いつも苦虫をかんだような顔をしている男がたまらなく嫌になったのだと思う。

それならどうして私と結婚したと言いたくなるが、あの時は誰かに縋りつきたくて、近くにいたのがたまたま私だった。

愛した男と無理やり別れさせられ、その男が別の女と結婚をしてしまった。あの時の妻にとっては縋りつけるものなら誰でも良かったのだ。

そして、結婚し子供が生まれ、気が付けば5年も経ち、何の変化のない結婚生活に嫌気がさしていた。そんな時に昔の恋人が現れて一緒に行かないかと言われ、あまり考えずに家を出てしまった。

今にしてようやく私はそのように考えられるようになった。

だからと言って、あの女を許せるものではない。あの女のことについては思い出したくもないし、忘れるのが賢明なのだろう。

いつまでも昔のことに拘るのはつまらないことだ。

これからは今の幸せをいつまでも守っていくのだ。

キャシーに1日何度でも愛していると言ってあげよう。

夫婦の絆が守れるなら、恥ずかしいことなどない。

今の私はそのように考えている。


1話で言いましたが、これは掲示板の実話をヒントにしました。ただし、妻に家出され、娘に裏切られたところだけ同じで、他は全て私の創作です。また実話では娘と和解できませんでしたが、ハッピーエンドに変えました。それが皆さんに面白く思われれば幸いです。

ではここまで、読んでいただきありがとうございました。

未完の作品もなんとか完成させようと思います。


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