17話 結婚
少し、書き直して見ました。
(え!冗談でしょう。いくらなんだって、女性と、しかも金髪さんとお風呂に入れるはずないだろう)
「いやあ、それは良くないよ。」
「私は良いです」
そんな、押し問答をして、私は折れた。本音を言えば、女性と一緒に風呂に入るのは願望でした。それまで一度も女性とは風呂に入ったことがない。その夢がかなえられる。しかも向こうから言い出してくれた。私は強く断れはずもなかった。
彼女は私と入っても恥ずかしさは見せなかった。しかし私は白い女体に完全に参ってしまった。
正直に言おう、私は性欲を暴発させ、湯船で彼女を抱き寄せ、キスをしてしまった。嫌がるそぶりも見せないことにいい気になって、そしてその夜、私と彼女はベッドを共にした。
彼女の誘いに乗ってしまった気きはするが、以前から私は好意を寄せていたことは間違いない。
彼女ともっといたかった。翌朝、嫌でなければ同棲しようと申し込み、同意してくれた。
「僕は前に結婚を失敗した。今になって見れば、相手の人を良く分からないまま、結婚していた。それが離婚の原因だと思う。だから、しばらく付き合って、僕と暮らせて行けるか見て欲しい」
「ええ、いいです」
4月になって、彼女は少し離れた高校で教えることになり、私の家から通うことになった。
キャサリンは私の生活スタイルに共感していた。
「この自然の中で生活するのは素晴らしい」
「都会よりもここの方がいいです」
彼女は何と農作業をやりだした。私も家で食べる野菜を作るぐらいはしていたのだが、彼女は本格的にやりたいようだった。
「トラクターを使って、畑を広げましょう」酪農にも興味があるようだった。
「僕らは農家の経験がない。いきなりは無理だ。今自分たちの出来ることから始めるべきだ」そうやって、暴走は何とか食い止めた。
ただ、私の動けるのは長くて10年。その前に彼女の生活を安定させる手段を考えなければなるまい。
英語教師とは言え、あくまでも臨時職だ。今回のような移動もあるだろうし、ここから通えなくことも考えられる。
ペンション経営もいずれ始めようかな。そんなことを考えるようになったのも、彼女と暮らし始めた影響だった。
彼女は私との生活に満足していた。
一方の私も彼女のストレートな物言いを好ましかった。
私はある意味、彼女に押しまくられるようにして結婚を決断した。おそらく、西洋人の持つ積極性がなければ私は結婚に踏み切れなかったと思う。
あんなに咲さんが好きだったにもかかわらず、求婚しなかったのは、色々な事情はともあれ、私が優柔不断な性格だったからだ。
それが、キャサリンはストレートに感情を出してくる。
「私を好きですか、嫌いですか?」彼女ははっきりと聞いてくる。曖昧な答えなど出来ない。
「君をいつも愛していると言葉には出せない。でも心はいつも君のことを思っているんだ」
日本人なら黙っていても分かるだろう。以心伝心と言う言葉だってある。だが彼女には通用しない。
「心に思っているのなら、口から出して欲しい」
最後は私が押し切られ、愛の言葉を表明せざる得なくなった。
半年間でそれも決して恥ずかしいことでもなく、当たり前になっていた。互いの呼び名もヨッシーとキャシーと言い合うようになる。
そして夏が終わるころ、思い切って求婚し、受け入れてくれた。
私の長く続いた一人やもめに遂に終止符が打たれた。
もう一つ嬉しいことがある。キャシーが妊娠したと言ってきた。まだお腹は目立たないが間違いないらしい。
私は50も半ばになって、よもや子供が出来るとは思わなかった。
「体に無理しないでくれよ」やはり彼女とお腹の子が気がかりになる。
「まだ、大丈夫よ」
「明日にでも結婚届をだそう」
「結婚式は?」
「正式に夫婦になることが先だ。」
結婚することにより、彼女は日本籍となり、日本の法律に守られ、恩恵を受け取れる。
求職にも有利に働くし、何よりも生まれてくる子供が保護される。そんなことを説明した。
「でも、結婚式はやりたい」
キャシーが教会で式を挙げたいと言ってきたので、私はすぐに賛成した。
「ヨッシーはクリスチャンでもないのに教会でもいいの?」
「別に構わないよ。良い思い出になるならそれでいい」
結婚式の日取りはバタバタと決まった。私たちは形式的な結婚披露宴を行わず、自宅でパーティをしようと決めた。
そうなると冬が来てしまうと庭を使えなくなるので、急いで小さな田舎町の教会で式を挙げることになった。
ホテルも観光シーズンでないため、空き室を多く抑えられた。ここに遠くからの友人家族を招待して泊まってもらうことにして、少人数ながらも和やかに結婚式をあげられた。
幸いにも好天に恵まれ、パーティは庭で開くことができた。芝の上にテーブルと椅子を置き、プロの料理人に来てもらい、各卓に大盛に並べてもらう。近所の人も加わり、愉快なものになっていく。
それぞれのテーブルにいる客に挨拶にしていくと、色々なことを言われる。
「お前もようやくやもめを抜けられたか」それは何度もお見合いの話を持ってきた本間さんだ。
「ええ、やっとですよ」仕事で20年のお付き合いだ。それ以上に家族同様にしてもらって、娘も可愛がってもらえた。
今では、息子が後を継ぎ社長業は引退しており、遠く私の結婚を祝いに来てくれた。
「うん、うん。よかった。良かった」この人にこう言われると言葉に詰まる。
「お忙しかったのでしょう。ありがとうございます」北村さんも来てくれた。
「なあに、支社の状況を見たかったので丁度良かった。」
この人には独立の時にお世話になったほかにも、仕事を回してもらったこともあり頭が上がらない。
「外人さんにほれ込むとはずいぶん大胆なことをしたな」
部下であった頃、私が慎重居士であることを知っている北村さんに言われると、やはり返す言葉も出ない。いつまでも上司と部下の仲である。
そして和樹なのだが、会社の重役さんの隣ではいつものようにはしゃげないのが見ていておかしかった。今日一日は重役のお供はきまりである。
残念ながら、咲さん夫婦は都合がつかず来てもらえなかったが、いずれ我が家に招待したいと思っている。
そう思っていると、今度はガラの悪い声が上がる。
「おい、嫁さんとのなれそめを聞いてないぞ」少し酒の入った加藤が絡みだしてきた。
「彼女が俺に一目ぼれしたのよ」
「嘘つけ」どっと笑い声が起きる。
そんな楽しい、にぎやかなパーティは夕方近くまで続いて行った。