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第74話  確かに商魂逞しかったな




ジャンヌス姉妹に案内され屋敷の中を行くシュージン達。外から見た時は、お金持ってそうという感想を抱いたが、外だけでなく中身まで、「お金持ってそう」そのものだった。

高そうな壺、銀色に光る甲冑、壁にかかる鹿の頭の剥製。

「すごいお金持ってそう。」

今度はバッツが言った。

「そだね〜、伯爵様はガチでお金持ってるよ。」

ヘラヘラとシュージンとバッツとお喋りしながら並行するデビュ。先頭で歩くセフィニは少し足早に歩く。

屋敷内の警備兵がすれ違う度にセフィニとデビュに敬礼していく。

セフィニは「ご苦労」と無愛想に言い、デビュは手を振り「おつ〜。」とねぎらう。

「デビュさんは本当に偉いんですね。」

周りの警備兵の態度を見てバッツはデビュが先程言った事を思い出した。

「あ〜っ!信じてなかったな〜。」

「え、いや、そんなことは・・・!?」

バッツは慌てて否定するがデビュは手をブンブンと振り答える。

「いーよいーよ、ガチでエラそうに見えないってよく言われるし〜。」

「しかし、マルス伯爵の私設兵団も大きいとお見受けします。どれほどの兵がいるのでしょうか。」

シュージンがデビュに質問する。

「あ〜、まあ伯爵領全部で3、4000人はいるんじゃない。」

「おいッ!」

セフィニが振り返りデビュを睨みつける。

(まだそいつらを完全に信用してはいないッイルドの間諜だったらどうする、兵力を教えるな!)という制止の意味があった。勿論そんなことはデビュにも理解している。

しかし、デビュにはこの二人組が帝国の回し者でないことをある理由から確信している。それに、強力な召喚獣をみすみす手放すことを帝国はしないし、こんな回りくどい手を使う意味が感じられなかった。さらに彼女には万が一帝国のスパイだとしても逆にこっちが利用してやるという自信があった。

「いや〜ん、セっちゃ〜ん急に大きな声を出さないでよ〜。怖〜、待合室に着いたなら着いたで静かに教えてよ〜。」

デビュがセフィニの横をすり抜け部屋のドアを開ける。セフィニはすれ違う瞬間に耳元で囁かれた。

「怪しいなら見張っとけ。」

小さな声でデビュはそう伝えると、何食わぬ顔でシュージン達に言う。

「まあ、入ってくつろいで〜、あーしが伯爵様に話し通しとくからさぁ。おニイさん達はセっちゃんと駄弁ってて〜。」

そういうとデビュは廊下を走り去って行った。長い廊下で小さくなっていくデビュの背中が完全に見えなくなるとバッツがセフィニに質問する。

「あの、部屋に入っても?」

「ああ…」

先程のデビュの一言で驚いていたセフィニは力なく答えた。


(怪しいなら見張っとけ、か…)

待合室とされた部屋の柔らかいソファに体を預けると沈むような感覚がした。

低いテーブルが一つ、シュージン達とセフィニは向かい合う形で座る。

「・・・」

「…」

会話がなくバッツが何か話しをと口を動かす。

「この花瓶、素敵ですね。」

「ああ…」

「挿してあるこのお花なんていうのでしょうか?」

「花には詳しくない…」

取り付く島もないセフィニの態度にバッツは苦笑いするだけであった。

今度はシュージンが心配そうに質問する。

「何かありましたか?門の前で会った時と比べてお疲れの様子ですが?」

「なに、双子の姉の言動にいささか疲れただけだ。」

先程より比較的長い会話が発生したので、バッツは話題を見つけたと考えた。

「それにしてもやはり双子ですね、デビュさんとセフィニさんそっくりです。」

「見た目はな。…だが自分とデビュは違う。根本的なものが異なるんだ。…異なる、いや欠けていると言った方が正しいのかもな…。」

「欠けている?」

「冷静な賢さ。」

「確かに、失礼ですがデビュさんは忙しい方でしたね。」

「…ああ。」

バッツは苦笑しながら、セフィニと楽しく会話できたと思い込んでいた。

しかし、バッツとセフィニには大きな意識の差があった。

(冷静さが足りないのは自分の方だ。あいつは賢い、自分がどう振舞えば周りがどう考えるかが自然と把握できている。それが分かった上での行動だ。)

セフィニは自分の行動はただの頭でっかちな行動だと反省した。そして、真逆の冷静さを持つ姉の言葉、「怪しいなら見張っとけ」。

デビュの目にはシュージン達は「見張る価値のない普通の奴」と映ったのだろう。


「ところで、お聞きしたいことがあるんですが。」

シュージンが質問する。

「なんだ?」

「先程、帝国に他の町や砦を占領されているというお話でした。それに王国軍もいないようですし、正直な所、町の人々は不安なのでは?」

セフィニは少し小さなため息をつく。

「行商人を名乗る割に社会情勢には疎いんだな。」

「なにしろ、昨日この町に来たばかりで・・・それにこのような情報は偉いお方に聞くのが一番正確ですし。」

シュージンは行商人の身分についてははぐらかしつつ、正直に返す。

「王国軍がこの町から引き上げたのは一月程前の事だ。それについては特殊な事情があり話せない。」

バッツは『哀しみを知り一人で泣きましょう、そし亭・・・』の営業不振について何かわかるのではないかと期待したが、セフィニのキッパリとした言葉に落胆する。横で聞くシュージンの様子を見ると、真剣な顔で聞いているので自らもセフィニの話の続きを注意して聞くように気を引き締める。

「そして、つい二日前のことだが占領された砦から緊急の飛空移動特化型の召喚獣で各地の領主城主に書状が届けられた。イルド帝国より一時停戦の申し出あり、とな。」

二日前なら獣人の集落にいた時だ、プレジの町での戦闘が三日前。

「一時停戦の申し出には、和平交渉の場を設けたいという文言があった。それ故、マルス伯爵様はこの町の安全を保証したのだ。町が賑やかなのはそれもあるがマイドの商人の気質もあるのだろう。」

「ああ〜。」

シュージンとバッツはクーネルの事を思い出す。

((確かに商魂逞しかったな。))

クーネルのがめつさは地域が育てたのであった。


その時、待合室のドアが開いた。

「おっ待た〜。伯爵様が会ってくれるってさ〜。」

デビュが笑顔で顔を覗かせる。その言葉にシュージンとバッツも思わず顔がほころぶ。

「ノックくらいしろッ!」

「やだ〜妹が思春期〜。」

「マナーの話をしているッ!」

はいはい、と流すデビュ。先程から元気がなかったセフィニも生き生きしているとバッツは思った。やはり姉妹だとそばにいるだけで楽しいのだろう、と自分の知り合いの兄妹の事を思い出す。


続く







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