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第71話  そうでなくては面白くない



一方、シュージン達が宿屋に着いた頃、プレジ跡地に駐屯するリチャード隊では、ある事件が起きていた。

本来なら、すでに召喚士斥候であるウイキ少尉の後を追いかける予定であったが、思わぬ来客により足止めを食らっていた。それも、二箇所から別々の来客が・・・

普通なら独自の指示系統を持つ特務参謀は、作戦遂行という名目の為に突っ撥ねることができるのだが、相手が相手なのでそれが出来ずにいた。

リチャードは軍属である煩わしさを憎みつつも、その来客達と面を合わせる。

リチャードが使用する作戦室用のテントに、リチャードとその副官のジュノ中尉。客人の気の強そうな赤い髪の女性。もう一人の客人、貴族の子弟のような切れ長の瞳の三つ編みの美少年が会する。

まずはリチャードが口を開く。

「皆様にお会い出来て光栄です。まずは私から、自己紹介させていただきましょう。私は西方征略特務部隊隊長。リチャード・メガラネカと申します。こちらは副官のジュノ・バーディ中尉であります。」

リチャードの紹介にジュノも一礼する。

「下らない挨拶なんて抜きにしましょう。わたくしは貴方の事をよく知っておりましてよ。」

「モエル大尉。」

「別にいいのですわよ、階級なんて。わたくしもラチャオも士官学校の同期生ですもの。それとも貴方は階級で呼ばれる方がお好きなのかしら?」

長い赤い髪を縦に巻いた女性は不機嫌そうに呟く。

「この度は、婚約者様がお亡くなりご愁傷様です。」

リチャードは深々と頭を下げて言う。

「ええ、知っての通り、我が夫となるはずであったキーヤン・ラチャオは名誉の戦死を遂げました。」

そう言う彼女はモエル・ウラネシス。

ラチャオの婚約者で、自身も凄腕の召喚士である。彼女の父はイルド帝国軍西方司令部の長官。つまり、帝国の西側のトップのご令嬢である。

彼女はラチャオの訃報の第一報が届くと、リチャードの詳細な報告書が来る前に飛び出してきた。

「私の部隊がもっと早くに駆けつけていれば・・・」

「別に、悲しんでいる暇はございません。それに、貴方が責任を感じることはございません。事実、キーヤンはわたくしの父の図らいでこの作戦に参加しましたので。」

特務参謀は帝国軍の中でも特殊な立場にあり、その地域の司令部の命令には基本的に左右されない。組織図的には帝国軍最高司令部の最高司令官直属になっている。

特務参謀とは、帝国が世界統一のために、その広大な侵略地域を円滑に従属国にするために、優秀な軍人に一定の土地を支配させようという考えの元に生まれた階級。

特務参謀には様々な権限が与えられており、自身の持つ隊のある程度の人事権。特殊作戦の立案や出撃の独自行動権。支配地域での徴税、帝国法での裁判、治安維持のための軍の利用等が認められる。その代わりに、特務参謀になるためには高難易度の試験をパスしなければならない。帝国におけるエリートなのである。

「いえ、今回も西方司令部との連絡を密にすれば防げました。」

「ですから貴方のせいではございません。わたくしの父が、将来の息子に箔をつけるために適当な仕事を勝手に斡旋したに過ぎません。なにやら中央の方からもお達しがあったそうですが。それはこちらの方が知っているのではないかしら?」

モエルから話を振られたのは、先ほどから自らの髪をいじっていた貴族の子弟風の少年。

「ハハハッ、雲上人の方々が考えることなど、ワタシには理解しかねますなぁ!」

ようやく話せて嬉しいのかまるではしゃぐように笑いながら言う少年。

「申し遅れました。ワタシはテオ・ヤークト大尉。以後お見知り置き願います。リチャード特務参謀殿、モエル大尉殿。」

テオは立ち上がり貴族風に大袈裟に礼をする。

(テオ・ヤークト、あの天才と名高い召喚士。)

モエルは深々と頭を下げる少年を見る。自分より少し若い同じ階級の天才に、嫉妬の感情を抱く暇すらなく呆気に取られた。まるで、演劇の役者のように振る舞う姿に軍人とは思えぬ雰囲気を感じた。

「して、ワタシ共の要件を言わせていただきましょう。モエル大尉殿もその為にきたのでしょうから。」

テオは顔を上げ、座り直して言う。

「え、ええ。」

「概要は伺っております。詳細をお聞かせ下さい。」

「そぉですか!ならばモエル大尉から、どぉぞ。レディファーストです。」

若干戸惑ったようなモエルにテオは手の平を上に向けてどうぞどうぞと勧める。

「では、この度のラチャオ大尉が亡くなった一件。西方司令部は作戦失敗の汚名を濯ぐため、ラチャオを殺害した敵兵の討伐に乗り出したいのです。」

モエルは強い眼差しでリチャードに言う。その眼差しには復讐の炎が宿っていた。

(へぇ!ガンバ王国にはすでに和平条約の締結の話が出てきている。こうなってしまっては普通の軍司令部では手が出せない。特殊作戦を専門とする特務参謀様の力をお借りしたいって言う訳だ。まあ、そんなところだと思っていたけれど。でも、それってただの敵討ち、私怨でしかないでしょ。特務参謀様も真面目ぶってさぁ。)

テオは再び自らの髪を弄りながらモエルの話を聞く。

モエルはそんなどこか冷めた目線で考えるテオには目もくれず、リチャードに最後に一礼して頼み込む。

その様子を見てテオは、話が終わったと思った為、すぐさま口を開く。

「では良いですか、次はワタシの番です。リチャード特務参謀殿には作戦の概要書をお渡ししたからご存知でしょうが、これは四天王サンレヴェレント・パワー公の命令です。」

「「四天王様の!?」」

モエルとジュノは予想外にも上層部の存在が介入してきたことに驚いた。雲上人の考える事など分からないと言っておきながら、自らは上層部の命を受けて来てることを明かしテオはしたり顔で続ける。

四天王とは帝国軍の最高幹部。イルド帝国が帝国になる前の時代に活躍した最強の召喚士達の総称だ。現在ではその子孫一族が貴族的な待遇により、帝国の政治、軍事、法、財、あらゆる重要な役割を担う。

「まあ、正確にはパワー公の側近。ナイカ・バターカール殿の命令なのですがね。」

「して、詳細をお聞かせくれませんでしょうか。」

「獣人の捜索です。2ヶ月程前に大規模な獣人の征討作戦がありました・・・」

「待って下さい!」

ジュノがテオの発言にストップをかける。本来なら中尉が大尉の話を遮ってはならないがテオは、どうぞどうぞと大袈裟に腕を動かす。

「どぉぞ、ジュノ中尉殿?何か質問がありますかねぇ?」

「あっ、失礼しました!おそれながら、この前、帝国の最高議会で獣人、エルフ、鬼人、有翼人は世界統一に伴う臣民化の対象に決定されたはずでは?」

「ええ、確かに!五種族は未来の帝国臣民!仲良くしなければなりません。ですが、悲しいかな彼方様はこちらとは仲良しこよしとはいきませんでした。」

やはりテオはまるで胸が張り裂けそうだと言わんばかりに胸を押さえ、大袈裟に言う。

「生憎、ワタシはその場にいませんでしたが、バターカール殿によると、ある獣人の村が再三に渡る投降勧告を無視したので、パワー公の召喚獣で殲滅しようとした、しかし数十名の獣人がこのガンバ王国へ逃げたとの情報です。」

「ですからその獣人達を追ってると?」

「まぁそんな所です。ワタシが派遣されたからには、とにかく情報の裏は取りたいものです。」

テオが言うある村というのはアバル達の村の事である。

帝国では、獣人は人間程ではないがそれなりの知識を持ち、運動能力も訓練された召喚士なら十分対抗できると考えられている。ミシェルが読んだ古い本の知識とは違う。

それ故に天才テオも疑問に思うことが多々あったが。四天王の名前を出されては、おいそれと文句を言えないし、質問もできない。

(これが、単に四天王が取り逃がしたミスをなんとかしろ、というのなら恩を売るチャンスと喜んでやったんだが。)

テオは和平交渉中のデリケートな時期にわざわざ自分に人探しをさせるバターカールを信用できないし、なんならこんな仕事自体面倒臭いと思っていた。

リチャードもテオの話を聞いて、色々と思うことがあった。

(テオ大尉の口振り。私の『追ってるのか』という質問に対して、『そんな所』と濁した返答をした。これはテオ大尉の本当の使命は獣人の殺害と見ていいだろう。でなければ天才召喚士を派遣した意味が無い。そして、テオ大尉もその命令に疑問を抱いている。情報の裏を取りたいという言葉で本心が分かる。それに、二ヶ月前の事で今来るという事はパワー軍の中で何かまごつく事情があるかもしれない。)

テオはもう、リチャードの答えが分かったようでまた髪を弄りだす。

(まぁ、連れて行かざるを得ないでしょ。断るのはメリットは無いし、四天王の為に働けば恩を売れるし、もしこれが何かの不正とかの為なら弱みを握れる。それにこの天才を部下に出来るんだ、これ以上無い美味しい話でしょうに。後の問題はこっちの七光り女だな。)

テオは横で、拳を握りしめながらリチャードの返答を待つモエルを見る。

モエルは親の七光りなどと言われているが、召喚士としての実力も確かである。

(まぁ、西のトップのお姫様なんだ。今後も良い関係でいる為には、これも断りにくいよなぁ。)

テオはもうすでに、自分がモエル共々、リチャードに同行することを確信していた。

リチャードは二人の話を聞き、自分の考えを話す。

「お二人の事情はよく分かりました。では、私からもお話させていただきます。」

リチャードは一息置いて、モエルとテオを見る。

「今回の作戦は、ラチャオ隊を壊滅させた敵勢力の調査です。ガンバ王国とは既に和平の話が出ておりますので、戦闘行為は極力避けたいのです。ですから諜報に長けた兵達でまずは情報を集めるつもりでした。」

モエルとテオの意識がリチャードの言葉に向けられる。戦闘行為を避けるという事は、モエルは敵討ちを出来ず、天才召喚士のテオは自身の役割が薄いからだ。

「ですが、テオ大尉のお話を聞き、獣人がラチャオ隊を壊滅させた可能性が出てきました。」

(まぁ、あくまでも可能性。実際は帝国から逃げたような奴ら。ほぼ非戦闘員だから、そんな軍隊を壊滅させるような力はないだろう。それも特務参謀様も気付いているはず。)

テオはリチャードの言葉になにか裏があることを感じ取った。

「ですので、モエル大尉、テオ大尉ような強力な助っ人がいて下さるととても心強い。ガンバ王国には獣人の国とは国交はなかったはず。不法入国してきた獣人を追い払えば和平の話もより強固になります。」

(分かってしまったなぁ!こちらが権力を盾にお願いしたつもりだが、彼方が『本当はそんなつもりでは無かったけど、こうなってしまったら仕方がない。』というスタンスをとられれば、こちらもどこか話を譲らなければいけなくなる。そうすれば、主導権は特務参謀に取られてしまうし、どこかで不都合が起きてしまった時の『本来の作戦とは違う』という予防線になる。)

テオはリチャードの賢しさに、舌を巻いた。

モエルは話の主導権がリチャードに傾いたことには気づいてない。作戦に参加できる、復讐の機会があるということに頭がいっぱいになっている。それは亡き婚約者ラチャオに対する愛ゆえにであった。

「しかしながら先程も言った通り、今は和平に向けて大事な時、少人数の編成で内密に入国したいものです。」

「ええ!西方司令部からは、別にわたくし一人参加させて頂ければ問題ありません!」

「ハハハッ!流石はモエル大尉、果敢なものです!しかしながら此方は抱える任務の都合上、ワタシ一人というのは心許ない。パワー軍よりは、もう一人ワタシの副官が来ますが宜しいですかな?」

「ええ、構いません。こちらから出す隊員も後でご紹介しましょう。」

まんまと最小限の人数を参加させられて恩を売られる形になってしまった。

上層部から来る命令を捌ききり、それでもなお、涼しい顔でいるリチャードにテオは不思議と好感が持てた。

(そうでなくては面白くない。特務参謀様も腹芸が得意なようだ。)

涼しい顔でいるリチャードにモエルは熱心に声をかける。

「リチャード!キーヤンの敵討ちですわよ!必ず成し遂げましょう!」

「ああ。」

口ではそう言ったものの感情で動くモエルとは対照的にリチャードは心の中では冷静で仕事に対して忠実であった。

(モエルの気持ちはよくわかるが、別にこの機会に友の敵を取ろうなどとは思わん。犯人が分かればいつでも倒す機会がある。恐ることは、犯人が王国と結びつくことのみ、こちらが手を出せなくなることだ。)



続く


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